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Meister Interview 緑 健児(Midori Kenji )

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ホソヤエンタープライズ代表取締役社長/細谷圭二

ホソヤエンタープライズ代表取締役社長
細谷 圭二

  • 細谷 圭二プロフィール
  • ダイジェスト版(読了時間5分)
  • 記事全文(読了時間15分)

花火職人になるための修業について


Q:一発の花火を造るのには、どれくらいの時間とコストがかかりますか?

玉の大きさによって大きく異なるが、最も大きい三尺玉だと全工程で半年間かかる。値段は寿司屋ではないが時価になる。我々は個人に対して販売はできないため、花火大会の主催者と、会場の環境や様々な状況を考慮して値段を決める。三尺玉だと玉の重量は280キロにもなり、原価だけでも数十万円、また打ち上げには2トンクラスの台が必要になるため、運搬に必要なトラック、人などの経費も考えると、数百万円のコストが掛かる。職人の立場から言わせてもらうと、三尺玉のような大物を花火大会に出すときは、「娘を嫁に出す」ような気持ちになる。製造期間だけで半年間もかかるうえ、大きいものは一年間ほど寝かした方が「座り」が良くなり、綺麗な華を咲かせるなんてことも言われるため、思いっきり情が入ってしまう。小さい玉では一人の職人が1日で4~5発程度作れるものもあるが、一度に並行して複数の球を造るのではなく、基本は一発一発、丁寧に造っていく。

Q:花火職人になるための修業について教えてください

玉貼り3年、星掛け5年という言葉がある。修行に入ってすぐにやらされるのは、玉貼りというクラフト紙にのりを付けた紙を、花火の周りに何重にも張っていく作業。花火屋では女性達を中心に行うことが多く、貼り方は縦貼り、横貼り、袈裟貼りなど、様々あるが、丈夫にそして均等に、絶対に花火の中心に水分が入らないように、1枚1枚乾燥させながら丁寧に貼っていく。まずはそれを手早く、こなせるようになってから、星掛けといって、花火に入れる星を造る作業をやる。その後に玉込めといった、花火造りに重要な工程をやらせてもらえるようになっていく。
花火は玉の外に打ち上げ用の火薬を取り付け、心臓部に達している導火線(親道)に火をつけてから打ち上げる。
着火すると、3~4秒後に爆発するように設定されているが、導火線が痛んでいると「黒玉」と言って、開花せずに不発で落ちてきてしまうし、大きい玉になると、打ち上げ用の火薬の爆発に耐えられる硬さに仕上がっていないと、筒の中で爆発したりしてしまう。それぞれの重要性をきちんと理解させるためにも、一つの工程を何年もやらせる。

Q:1人前までにはどのくらいの時間が掛かりますか?

やはり最低でも10年かかる。簡単な作業は一切ないし、玉貼り、星掛け、玉込め、すべての工程を完璧にこなせる職人でなければ、一つの花火を造ることはできない。三尺玉のような大作を造りたければ、更に厳しく長い年月の修行が必要。花火職人なら誰でも大きい玉に憧れるし、自分も三尺玉(直径90cm)をどうしても作りたくて、三尺玉の名人といわれる新潟県加茂市の阿部煙火工業(株)阿部正平氏に弟子入りをお願いした。

花火の製造技術は門外不出なため、おいそれとは同業者の4代目を弟子にはしない。花火大会で会うたびに、弟子入り志願しては断られ、それを数年繰り返し、粘りに粘ってようやく弟子にしてもらった。3年間の新潟での修行は、自社でやっていた時の何倍も厳しかった。賞なんかもらって、天狗になっていたその鼻を見事にへし折られ、技と礼節をたたき込まれた。今思えば、その厳しさこそが親心だったと思う。おかげで初心に返って一からやり直そうって目が覚めた。
阿部正平師匠が「自分で一から造り上げた花火で納得のいったものは、これまでの職人人生で1~2発くらいだ」と言ったが、その言葉に強いショックを受けたし、やはり本当に奥が深いものだと、再認識した。

常に納得のいくものを作る


Q:“満足の一発”とは?

常に納得のいくものを作ろうとしているが、たまに自分でも特に良い感触が残るときがある。ただ、お客さんに見てもらってなんぼの世界であるため、その良し悪しは自分では評価ができないし、最後に決めるのは、お客さんだと思っている。隅田川花火大会のようなビルや住宅の密集地では、お客さんとの安全な距離「保安距離」が、150~200メートルくらいと近いため、花火を打ち上げたあとにお客さんの歓声が自分にまで届く。その声を聞いてはじめて「満足の一発」だったのだということが自覚出来る。

Q:昔と現在で、修行の仕方に変化はありますか?

自分の修行時代は「超」がつく縦社会で、仕事中に蹴りや拳骨が飛んでくるのは当たり前。基本叩かれて覚えた。 花火製造所での失敗や事故は、下手をすると直接死につながり、自分だけでなく他人をも巻き込んでしまう。危険なものを扱っているのだから、厳しいのは当たり前だという自覚が全員にあった。そんな緊張感があってか、職人は仕事中みんな無口で、修行中の小僧は「先輩の背中を見て覚えろ!」といった文化だった。

今もそんな緊張感が前提にはあるが、今の教育はそれとは少し違い、きちんとコミュニケーションを取って教えている。その作業の中で考えられる危険、その作業工程を踏む意味など、論理的にも理解できるように教えていく。その背景として、今の若者は理不尽な縦社会とその意義を知らないし、それだけに殴る・蹴るなんてことはできない。また、強い口調で言うと、すぐに委縮したり、凹んでしまうため、「怒るより、励ます」といったコミュニケーションに変わってきている。自ら、「自分は褒められて伸びるタイプなのです」なんて事をいう者もいるくらいです。(苦笑)
時代と共に、教育の在り方・コミュニケーションのあり方も変わってしかるべきだと思う反面、危険な仕事をしている以上、厳しさや緊張感は必要で、先輩とは友達同士では居られない、ということだけは理解させるようにしている。基本は自分から一人前になれるように努力をしなければ、だれも認めてはくれないし、そこに気づかない者は、自分から去っていく。一人前の職人を育てる環境としてはそれくらいでちょうど良いと考えている。