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Meister Interview 西 陽一郎(Yoichiro Nishi)

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西酒造株式会社 八代目代表取締役/西陽一郎

西酒造株式会社 八代目代表取締役
西 陽一郎

  • 西 陽一郎プロフィール
  • ダイジェスト版(読了時間5分)
  • 記事全文(読了時間15分)

「静の空間」を出て、今度は理系大学の研究室のような施設へ移動


Q:この施設は何をするところですか?

ここは、僕が直轄で見ている試験仕込み室。いままで見てきた醸造所が、1/100のミニチュアサイズで丸ごとここにあるんだ。実際の醸造所がそのまま実験用のミニチュアで再現できるように、メーカーさんにとことん協力してもらって完成した。この2階には「研究室」があって、研究要員が常に畑の土の研究や麹の研究、香りや味の研究まで、なんでもやっている。研究室で開発した新しい仕込み方を、実際にここで造ってみる。予想通りの成果が出たものを、実際の醸造所で造るっていう流れだ。 これは余談だけど、蒸留する前のもろ味を搾って、芋の繊維質だけで焼き菓子を作ったら、なんと鹿児島県の焼き菓子コンテストで「大賞」が獲れてしまったんだ。食品として利用できそうなものは、とにかくなんでも活用してみようっていうモチベーションの一つの成果だね。

Q:この試験仕込み室で、予想外や意外な発見が得られることも?

もちろん、試験の段階ではそういうこともあるけど、出来たものをちゃんと再現できなければ、全く意味がないから、偶然の産物を狙うという考え方ではやっていない。毎日研究を重ねてきた、これまでの成果と経験で、大よそ狙い通り・想定通りのものが出来てくるね。

Q:入社(入門)された方が最初に修行で覚えることは?

まずは、自分のところで造っている焼酎の銘柄や特徴を覚えなければならないから、瓶詰めとラベル貼りの作業。瓶詰の工程に入って、それぞれの銘柄の特徴をしっかりと覚える。4月に入社しても、その頃は醸造していないので、まずは屋根の無い仕込み=農業から、8月に入ったら屋根のある仕込み=醸造で、先輩の助手をしながら1年間のサイクルを覚えていく。

Q:一人前の杜氏になるのには、どれくらいの年数がかかりますか?

単純な作業として、機械の使い方や工程などを覚えるのは、2年間みっちりやれば覚えられる。他にも帳面から酒税から、色んな知識も学ばなければならないし、何より重要なのはすべて工程の「意味」を把握して、失敗や成功の理由を理解しながら仕事を覚えて行くこと。そのためには最低でも4~5年は掛かる。そこからさらに経験を積んで、色んな勘が働くようになるし、新しいことへのチャレンジもできるようになっていく。1人前までと言われればやはり10年かな。ウチでキャリアが長い杜氏だと20年を超えている。ここにいる有馬(取締役 兼 工場長)も、優秀な杜氏だね。

このあと、西酒造さんの畑で収穫された米の貯蔵庫→精米所→「お酒」の熟成蔵→自社農場へ移動、丁寧なご説明と共に、西酒造さんのこだわり・思い、そして新たな挑戦のことなどを、余すところなくご説明をいただいた。
また、各所ですれ違う社員の皆さま全員から、笑顔で丁寧なごあいさつをいただけた。

和室にて


この和室では社内外の方も招いた、“飲み方開発会議”なども行われるという。

Q:西酒造さんが掲げる、「農業」「家業」「感謝」の考え方について。

「農業」について、僕らは焼酎の原料になる米も芋も育てているけど、そこから先は「加工業」という側面がある。焼酎造りの土台として重要な「素材」を最高のものにするために、これまでも今後も協力関係にある農家さんと、自分達の「農業」を大切にするということ。

「家業」という意図は、ある意味「企業化」をしすぎてしまうと本当に良い焼酎は造れないと考えているから。一見すると僕たち人間が焼酎を造っている感覚になってしまうけれど、実際には微生物達が焼酎を造っていて、それを僕らは手伝っているだけに過ぎない。だから仕込みが始まったら昼も夜もなく、微生物たちの動き・状態に気を配らなければならないし、そこを企業化しすぎてしまっているとやり切れない。企業としての良い面は活かしながら、モノづくりのベースは「家業」でなければならないと考えている。

「感謝」とは、一緒に良い素材を作ってくれる農家さん、一緒に焼酎を造ってくれる西酒造のメンバーとその家族、出来上がった焼酎の流通や販売に協力をしてくれる小売店さんや問屋さん、そして焼酎を飲んでくれるお客様。すべてに「感謝」の気持ちを持ち、“三方すべて良し!”という状況を目指すべきという考え方。「造って良かった!売って良かった!飲んで良かった!」これが大事。

Q:「農業」のお話がありましたが、TPPへの交渉参加についてどう思われますか?

それで、日本の農家さん達が良い米を作れなくなるという危機感はまったくないが、製法にこだわっていない安い外国米がたくさん入ってきてしまうと、品質の高い米を“作る気がしなくなる”という状況があるかも知れない。政府は米を含む数品目を「聖域」とすることを掲げているが、実際にはなかなか難しいと思うし、仮にそれができたとしても今度は後継ぎ問題というリスクがあると思っている。 僕らは焼酎を造ることによって、お客様に喜んでいただき、社員を雇用し、農家に貢献する。そして、この連鎖を今後もずっと継続していきたいと考えているから、自ら屋根の無い仕込み=農業に参加して、万一の状況が起きても、問題がない体制を整えている。 フランスワインの醸造家達は、「うちの畑を見に来ないか?」という。ワイナリーではなく、畑を見に来い!と。
自分のブドウ畑にそれだけのこだわりを持ち、自分の畑で採れたぶどうでワインを造っているからだ。僕らの思いは、こういうワイン醸造家達の誇りに似ている。今まで蔵元は、原料は「仕入れる」という概念だったが、「原料から作る」をやって行かなければならない。ひいてはそれが、TPPの問題の解決にもなるし、また本来そうすべきであるという考えでやっている。

Q:170年の歴史の中でその取り組みは西社長の代から?

そう僕からだね。昔は国が買った米をぜんぶ組合ルートで販売され、蔵元達はそれを買っていた。その時から、自分達は何を造っているのだろうか?「國酒」と呼べるものはなんなのだろうか?と疑問を持っていた。焼酎が國酒になるためには、その土地・原料・風土を感じさせる酒を造れた時に、初めてそうなる。それをやり切って時代を変えて行いきたい。

Q:すでにかなりの年数をやってらっしゃいます。

芋焼酎を20年近くやってきて、確立してきた。焼酎醸造元で自社に畑と精米所を持って、備蓄をしているメーカーはうちしかない。過去に、国が販売していた米の一部に「事故米」が入っていたという事件があって、僕らはどこから仕入れた米も完全に検査しているから、品質に全く問題ないのに、その事故米を仕入れた蔵元という事で、勝手に社名を挙げられて、それをマスコミがバンバン煽って、大変な風評被害を受けたことがある。自分達がやってきたこと、思いや情熱を踏みにじられた気がして、本当に悔しい思いをした。その経験がきっかけで「ならば、米作りから精米から、芋作りからぜんぶ自分達でやるぞ!」とチャレンジがはじまった。周りのメーカーからは「できる訳がない」とか、「あんなことをやったらつぶれる」とか、色んな事を言われた。しかし、確立した今はもう何もない。今ではJAと同じように、地域の水田農業協議会にも参加している。自社で作った米を直接販売することもできるようになったんだ。