株式会社 山本海苔店 専務取締役
山本 貴大(後編)/良質な海苔を守るための“高値で仕入れる”という使命

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海苔のおいしさは「口どけの良さ」
良質な海苔を守るための“高値で仕入れる”という使命

1849年創業の「株式会社 山本海苔店」は、東京・日本橋で“海苔ひとすじ”を貫いてきた老舗海苔店である。海苔の品質に合わせて自家用や進物用、寿司用や蕎麦用といった用途に合わせて商品化するマーケティング的手法を江戸時代末期に取り入れ、「明治天皇の土産品」として考案し一般にまで普及した「味附海苔」や、海苔をメインとして食べる「おつまみ海苔」などさまざまな新しい食べ方を提案し、海苔業界をリードしてきた。

さらに近年は、営業本部長兼管理本部長を務める山本貴大専務の改革のもと、経営理念が存在しなかった老舗に「よりおいしい海苔を、より多くのお客様に楽しんでいただく」という指針が生まれ、百貨店で中元・歳暮を中心に販売していた業態から、土産用の商品に注力するなど販路を拡大し、30年にわたって続いていた売上減少に歯止めをかけた。

山本専務へのインタビュー後編は、良質な海苔を仕入れるために山本海苔店が貫いている、生産者から「高値で仕入れ続ける」という独自の姿勢について、そして日本橋室町一丁目地区の再開発に合わせて山本海苔店が踏み出す「飲食業」という新しい挑戦について語っていただきました。ぜひご一読ください。

山本 貴大さん インタビュー


――海苔がどのように育つのか知らない人も多いと思いますが、海苔を育てる技術が向上したのはいつ頃のことでしょうか?

まず、海苔は冬にしか採れません。天然養殖の時代は、「去年このあたりに網を出したら海苔がたくさんついたから、今年もこの辺りに出そう」という程度の作り方でした。偶然の産物のような作り方でしたが、イギリス人の海藻学者であるドリュー女史が1949年に、海苔の胞子は夏の間、貝のなかに潜んでいるという発見をしたことが、人工養殖の技術を進歩させたのです。牡蠣殻に海苔の胞子を吹き付け、それを網にぶら下げるという養殖方法が1950~60年代に確立され、日本の高度成長期と相まって、供給量、需要量が増えていきました。山本海苔店の売上が、百貨店のお中元・お歳暮などで一気に伸びたのもこの頃です。

――そもそも「おいしい海苔」とはどういう海苔なのでしょうか?

山本海苔店は「味の良さ」以上に、「口どけの良さ」を大事にしています。優れたお寿司屋さんは、口の中でフワッとほどけるようにシャリのなかに空気を残して握りますし、コンビニのおにぎりでもわざと空気を入れるほど、口どけはおいしさを決める重要な要素です。海苔のなかにも、スルメイカのように噛めば噛むほど味が出るようなものもありますが、山本海苔店ではそれをおいしいとしていません。

海苔は成長段階のうち、どの時期に採るかによって用途が大きく変わります。養殖した海苔が伸びていって、若く短いうちに切った海苔は非常に柔らかくて香りもあって味が良い。ただ、そういった海苔をラーメンなどに入れるとすぐに溶けてしまうので見た目がよくありません。長く伸びてから切った海苔は味や香り、色が落ちますが、固さがしっかりしてくるので、汁物に入れる場合に使いやすくなります。短く切ればいいというわけではなく、用途別の使い道があります。ただし、あくまでも口どけが良くて、味が良いというのが我々にとっての「おいしい海苔」であり、そういう海苔を大事にしています。

――短く切るほど海苔は高額になっていくのでしょうか?

山本海苔店が海苔を漁師さんから買う段階で、例えばその漁師さんが20センチで切ろうと思っていた海苔をもっと若い段階の10センチで切ってもらうには、2倍以上の価格で買う姿勢を見せる必要があります。若い段階で短く切ってくれた海苔かどうかは、仕入れの段階で見ればだいたいわかるものです。山本海苔店はそのような海苔を高値で買うことを、ずっと守ってきました。「若い段階で短く切れば山本海苔店は高値で買ってくれる」と漁師さんに認識してもらうことで、海苔の品質を守り続けられるからです。

銀行員時代は、「安く買って高く売る」ことができる企業こそが素晴らしいという価値観のもと、大きな利益を上げる企業こそが素晴らしいと信じ切っていましたが、山本海苔店は全く違いました。
もし、山本海苔店ができるだけ安く海苔を漁師さんから買おう買おうとしていたら、たちまち漁師さんは海苔芽をできるだけ長く伸ばし収穫量を増やそうとします。おいしい海苔が世の中からなくなってしまい、山本海苔店の存在価値すらなくなってしまいます。入社した時は、海苔を高く漁師さんから買おうとしている理由が全く分かりませんでしたが、今では完全に理解しています。 

――品質の良い商品を届け続けられる秘訣は?

二代目山本德治郎の仕訳(しわけ)のメンタリティーと技能は、今の時代まで受け継がれています。社長直轄の「仕訳技術室」という部署があり、そこで職人が徹底的に一枚一枚見て、食べて、食感や味を確認します。高値で買った海苔は進物商品やギフトに入れたいところですが、もしその中にあまり良くない品質のものがあれば、原価がどうであろうと「これは家庭用にしましょう」と判断をするのです。

ただ、仕訳を担当する人間に限らず、「社員全員がおいしい海苔とは何なのかをわかっている」ことは山本海苔店の強みの一つだと考えています。営業や販売ではない、総務など管理部の社員でも、「この海苔がおいしいかどうか」自信をもって言えるのです。冬に採れた海苔が届いたら社員が揃ってそれを食べて味をチェックする機会があるので、自然とそのような社風ができてきました。多くの海苔店が海苔以外の商品も製造しているなか、私たちは“海苔ひとすじ”を名乗っていますし、全員が海苔に強い会社を作ることができています。

――さらに海苔の売上を伸ばせる要素はありますか?

これは山本海苔店をはじめ、海苔業界全体の怠慢だったと思っているのですが、「海苔はうま味の塊である」「非常に豊富な栄養が含まれている」という、大勢の方が関心のありそうな魅力があるにも関わらず、発信しきれていませんでした。三大うま味成分のグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸が全て入っている天然の食品は、世界中を探しても海苔だけなのです。さらに100g当たりでは豚肉よりもたんぱく質がありますし、レモンよりもビタミンCを多く含んでいます。特に葉酸の含有量はあらゆる食材のなかでNo.1です。増血ビタミンであるビタミンB12も多く含まれていて、血が増えるだけでなく皮膚や髪にも良いので、女性が喜ぶような要素が詰まっています。これだけの魅力的な要素が揃っているので、それをアピールしていくことがこれからの課題です。

――今後挑戦したいと考えている取り組みがあれば教えていただけますか?

これまでの改革を更に進め、それと同時に新しい仕掛けを施さなければいけません。2021年には、日本橋室町一丁目地区の再開発が始まり、私たちの本社・本店も移転することが決まっています。以前の日本橋は金融街で、15時以降と土日はシャッターが閉まっていました。この街を活性化させ楽しい街にするためには飲食業が欠かせません。山本海苔店は海苔の売上しか立てられない会社でしたが、再開発の流れにのって、来年までに海苔以外でも売り上げを立てようと考えてやっています。

社員全員で決めた経営理念は、“海苔を楽しんで欲しい”というものです。若手を中心にした再開発のプロジェクトチームを作り、山本海苔を一番おいしく食べてもらえる方法はなんだろうかと改めて考えました。おつまみ海苔のように、海苔だけで食べていただくアイデアもありましたが、やはり「手巻き」だろうと私たちは考えています。具を足したり減らしたりしながら、お好きなように食べてもらうことができるお店を作って、日本橋で手巻きを食べる風景が生まれてきたら楽しいだろうなと想像しています。

――最後に“海苔ひとすじ”の老舗として、「口どけの良い」おいしい海苔を守り続けるための意気込みをお聞かせください。

おいしい海苔を作り続けることはすでに難しくなってきていると言えますし、今後さらに厳しくなっていくと考えています。温暖化などの影響で海苔の漁獲量は毎年減っていて、5年ほど前までは約80億枚で安定していたのですが、この冬に採れた海苔は65億枚を下回ってしまいました。当然、若く短いうちに収穫するおいしい海苔の割合も減ってしまうことになるので、それは山本海苔店にとっての危機です。

もしそのような状況になったとしても、山本海苔店は、良質な海苔を漁師さんから高値で買うことを続けていきます。後継者不足で漁師さんが減っていますので、海苔業界に魅力を感じてもらわなければなりません。そのためにも、良質な海苔を高く買い、おいしい海苔を守ることが山本海苔店の使命です。

<記者:平澤 尚威>

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