丸藤葡萄酒工業株式会社 代表取締役
大村 春夫(後編)/日本固有のブドウ品種「甲州」で世界へ

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日本固有のブドウ品種「甲州」で世界へ
“100点”の日本ワインを目指す老舗の挑戦

山梨県勝沼町の老舗ワインメーカー「丸藤葡萄酒工業」の大村春夫社長は、甘口ワインが好まれた時代から、国内では難しいとされた栽培方法「垣根栽培」に取り組み、欧州のような辛口のワイン造りに挑戦してきた人物だ。こうした欧州品種への挑戦などを経て、料理に合うワインが日本人にも好まれるようになり、ワイン文化も成熟してきた。

そんな大村社長は、日本の固有品種「甲州」を使って世界から評価されるワインを造ることを目標に掲げる。2018年には国際的なルールに準じて、日本で収穫されたブドウを原料とするワインのみを「日本ワイン」とする表示基準が設けられた。“純国産”のワインを世界に発信する土壌も着実に培われている。

大村社長へのインタビュー後編は、日本のワインの特徴でもある「甲州」と「日本ワイン」のこれから、そして「“0点か100点か”というワイン造りにも挑みたい」とも語る老舗ワイナリーの展望について伺った。

大村 春夫さん インタビュー


――「甲州シュール・リー」をはじめとした、丸藤葡萄酒工業の「ルバイヤート」ブランドの特徴は?

「ルバイヤート」はペルシャの詩集の名前で、酒と美女を称えた詩が多いことから名付けられました。私たちはあまり奇をてらったようなワインや、高級なワインを造ろうとは思っていません。例えるなら“三歩下がって歩く女性”のようなイメージで、日常の食にそっと寄り添うワインを目指しています。「甲州シュール・リー」は日本食に合うようなワインとして生まれていて、特にホタテ貝やイカ、タコ、エビなどの甲殻類に良く合う辛口白ワインです。

――「甲州」は数少ない国産品種ですね。

「甲州」は雅な色をした、繊細なブドウです。丸藤葡萄酒工業が生産しているブドウは、白ワイン用の「甲州」が5割を占めています。欧州からシルクロードを経て渡ってきたとされる、1000年以上の歴史がある日本固有の品種です。

EUにワインを輸出する場合、ワインの国際組織であるOIV(国際ブドウ・ワイン機構)に登録されているブドウを使用しなければ、ラベルに品種名を表示することができません。国産品種で登録されているのはこの「甲州」と、丸藤葡萄酒工業と同じ1890年にスタートした新潟県の岩の原葡萄園で誕生した、「マスカット・ベーリーA」の2品種だけです。

――「日本ワイン」という言葉の使い方も厳格化されたそうですね。

近年はワインの表示に関する制度が変わってきて、2018年には「日本ワイン」を名乗るための基準が制定されています。従来は海外の原料を使っていても、日本で瓶詰めされたものは国産ワインと名乗っていました。今後は海外の品種でもかまいませんが、日本で収穫したブドウを使い、日本で醸造しないと「日本ワイン」とラベルに表記することができなくなりました。日本ワインしか造っていない我々にはとてもありがたいことです。その分、純然たる日本ワインが「美味しくない」と評価されるわけにはいきませんので、責任がより重大になります。

例えばですが、日本のビールやウイスキーが外国の原料を使っていても誰も気にしません。美味しいビールを造れば“テクニックが優れている”と評価されます。一方でワインは風土を映す産物です。ことワインに関しては、海外のブドウで美味しく造れても、海外のワインとうまくブレンドして美味しくする技術があるといっても、なかなか評価されません。ワイナリーが個性を発揮し評価されていくためには、醸造のテクニック以上にブドウ作りが重要になってくるのです。

――今後、国内外で日本ワインを広く楽しんでもらうためにはなにが必要だとお考えですか?

日本の国土は狭いですから、土地の拡がりようがありません。その環境で、ボリューム重視で造ることは難しくても、少量で質の良いワインを造ることはできると思っています。世界に星の数ほどワインがあるなかで、日本のワインとは何か?と考えると、山梨県ではやはり「甲州」という品種が特徴なので、その魅力を伝えていきたい。

フランス以外の国々は、フランスの品種を育て、それが評価されて初めて自国で造っていたワインに力を入れ始めました。例えばカリフォルニアの「ジンファンデル」や南アフリカの「ピノタージュ」といった品種は、その地で穫れる「カベルネ」や「シャルドネ」の評価が上がるにつれて、“現地にも品質の良いブドウがある”と認められるようになっていきました。「甲州」もそれと同じように世界に伝えていかなければいけません。

品質を高めることはもちろんですが、少量のワインで生きていく方法を他にも考える必要があります。ワインを提供するだけではなく、ワイナリーの佇まいやブドウが育っている風土、造り手の顔を見ていただくことで、“ファンになってもらう”時代になっていくかもしれません。現在は年に2回ほど、勝沼のワイナリーを巡る観光ツアーが組まれていますが、もっと日常的にワインツーリズムが起こることに期待しています。お酒が絡むので車で来てもらうことを前提にせず、二次交通も含めて発展していければと思います。丸藤葡萄酒工業では蔵のなかにステージを作って、尾崎紀世彦さんや、アコーディオン奏者のcobaさんといったワイン好きのミュージシャンにコンサートをしてもらう「蔵コン」というイベントを30年以上前から開催してきました。蔵を訪れてもらいたいという想いはその頃から強く持っています。

――老舗ワイナリーである丸藤葡萄酒工業が、今後挑戦していく新しい取り組みはありますか?

辛口のワインが定着してきましたが、もちろん甘口のワインもまだまだありますし、それが好きな人もいます。巨峰やピオーネといった高級なブドウでワインを造る人もいます。ですが私たちはあくまでも、欧州系のブドウや「甲州」で料理に合う本格的なワインを造りたい。

一方、辛口を好む文化が成熟してきたことで、どこのワインも似通ってきてそれが“面白くない”と思われる風潮が出てきました。それを受けて、個性を出そうとするワイナリーも増えてきました。白ワインでも、赤ワインと同じように皮ごと漬け込んで渋みやオレンジがかった色を出すなど、色々なワインが現れています。

「甲州」は糖度があまり高くない品種で、16度ほどです。糖度が20~22度くらいあるとアルコール度数は12~13%まで上がります。日本は発酵段階の原料に砂糖を加えてアルコール度数を高める「補糖」が認められていますが、補糖をすることでブドウ本来の成分が薄まってしまうと考え、「アルコールが10%程度であってもナチュラルに造ろう」と補糖しない人たちもいます。私は11.5%くらいのアルコール度数が欲しいので補糖をしてきましたが、今年は砂糖を加えずに造るワインにもチャレンジします。

また、いままでは“造ったらすぐに販売する”ことが普通でしたが、これからは長期熟成させて味がのってきたワインを提供したいという想いがあります。そのためにワインを最大で10万本ほど保管できる貯蔵庫も作りました。

また、一般的な乾燥酵母ではなく、野生酵母で醸したワイン造りにも取り組んでいます。培養した酵母ではなく、ブドウについている酵母で発酵させるという昔ながらの手法です。乾燥酵母は“優等生”で、80点のワインを造ることは得意ですが、それが“面白くない”と思われる状況につながっているかもしれません。そんな時代ですので、野生酵母でなにができるかわからない、“0点か100点か”というワイン造りにも挑みたいと考えています。

――日本のワインを取り巻く環境が変わっていく中で、次世代の醸造家に期待することは?

ボルドーは世界の冠たる土地であり、これ以上の変化はないだろうとすら思っていましたが、近年は瞬く間に変わってきました。畑では、房や粒が小さく、葉っぱも健全そのものという、うらやましくなるほどワインに適したブドウが実っています。それでも、ニュージーランドやオーストラリア、アルゼンチン、チリ、南アフリカなど新興国のワインの品質があがってきたことで、ボルドーでさえも設備投資をしなければ「置いていかれてしまう」という危機感を覚える時代になっているのです。この設備投資ラッシュは、醸造の技術を高めると同時に、ツーリズムの面からも、訪れた人にきれいなワイナリーだと感じてもらうためのものでもあるでしょう。

若い世代には積極的で面白い醸造家が多いですから、世界の色々な地域を見ていって欲しいと思います。いいブドウを造るために情報を得て、それを交換しながら、年に1回しかないワイン造りのなかで常にチャレンジしていくことを大切にして欲しい。それが勝沼というワインの産地、そして産地らしいブドウ畑のある景観を作り上げていくことに繋がると思っています。

<記者:平澤 尚威>

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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