ガイアフロー株式会社・ガイアフローディスティリング株式会社 代表取締役
中村 大航(前編)/世界が注目する“世界唯一”と“伝説” 2つの蒸溜機

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ものづくりのDNAで挑むウイスキー造り
世界が注目する“世界唯一”と“伝説” 2つの蒸溜機

国内でのウイスキー、ハイボール人気や、海外でも高まり続けるジャパニーズ・ウイスキーへの評価を受けて、小規模ながら個性的な日本各地の蒸溜所が注目を浴びている。2016年に蒸溜所を竣工したガイアフローディスティリング株式会社もその一つだ。

代表の中村大航社長は、もともと家業の精密部品メーカーを営んできた人物である。酒造りとはまったく無縁だったが、旅先のスコットランドで蒸溜所を訪れたことが転機となった。小規模でも世界から評価されるものづくりに挑めるウイスキーに可能性を見出し、全く異なる業種に転換することを決めた。精密部品で培った“ものづくりのDNA”を駆使して良質なウイスキーを造ることができるという自信もあったのだ。

ウイスキーは原酒を3年熟成させて初めてようやく「ウイスキー」と呼ばれる。稼働したばかりのガイアフローはまだウイスキーを発売していないが、世界的な名声を得ながらも閉鎖された「メルシャン」の軽井沢蒸留所から受け継いだ蒸溜機と、薪の直火で造る世界的にも珍しい蒸溜機でのウイスキー造りが注目を集めている。

中村社長へのインタビュー前編では、ウイスキー業界に身を投じ蒸溜所を稼働させるまでのストーリーや、ガイアフローの大きな特徴でもある2つの蒸溜機について伺いました。ぜひご一読ください。

中村 大航さん インタビュー


――ウイスキー事業の前は精密部品メーカーを営まれていたとのことですが、事業を転換することになった経緯を教えてください。

もともとは海軍で技術職をしていた祖父が、地元の清水に戻って設立した会社です。メーターに関連する部品やセンサー、半導体製造装置の部品などを製造していました。私は34歳で三代目として経営を継ぎましたが、その頃から考えていたのは「何か新しい商品を作らなければいけない」ということです。私たちの商品は小さな精密部品が多く、金属や繊維を削る仕事が主でした。それなりに高いレベルの仕事をできていたと思いますが、ITの進歩とともに世界中から部品を調達することが容易になり、国内の職人の技術に対する金銭的・商品的な価値が薄れていったのです。結果的に、仕事がある時はフル稼働して、それがなくなると売上が1割程度まで減る状況になってしまうこともあり、安定した経営が難しくなっていきました。

そんな時代では、下請けではない仕事をしないと、ものづくりの企業として残っていけないと感じました。新しい事業の可能性を色々探りましたが、私たちが技術や経験を活かすことができ、浮き沈みがない仕事は何かと考えても、なかなか見つかりませんでした。しかしそれは、“部品”という視野に囚われていたからだと思います。

そのなかで実現の目途が立ったのが、以前から関心があり研究を進めていた再生可能エネルギーでした。2011年を境に、家庭への電力販売が可能になることがわかったため、2012年にガイアフローを立ち上げました。ところが電力自由化の開始が予定していた2013年から16年に延びてしまい、会社は立ち上げたものの「やれることがない」という状況になってしまったのです。

――会社として苦境が続くなか、なぜ異業種のウイスキーに辿り着いたのでしょうか?

気分転換にと思って海外旅行をした際、ウイスキー愛好家から“聖地”と呼ばれている、スコットランドのアイラ島を訪れました。島にある8つのウイスキー蒸溜所を全て回ったのですが、最後に出会ったのが、山奥にあるベンチャーの蒸溜所でした。他の7つは歴史のある大きな蒸溜所でしたが、そこは新規で小さく、少人数で、設備も“超”がつくほどのローテクなんです。私はもともとウイスキーが好きで、その蒸溜所の存在は知っていましたが、これほど小規模で造ったウイスキーでも世界へ送り出せるんだと気付かされました。目の前で見て初めて、「これは自分たちにもできるのではないか」と思えたのです。

小さな蒸溜所は自分が想定していたビジネスモデルにぴったりと重なるので、つくるものを部品からウイスキーに変えればいいだけだと考えました。部品ではオンリーワンの仕事が難しい時代になっていましたが、2つとして同じものが造れない酒であれば、“ものづくりのDNA”を生かしながら素晴らしい仕事ができると確信しました。

――ウイスキーの製造を決意し、ノウハウを学ぶ上で苦労されたことは?

日本にはウイスキーを造っている施設が少なく、日本酒のように杜氏さんを連れてくることは難しいので、造り方は自分で学ぶしかありません。2012年から製造開始までの4年間で、ウイスキーに限らず酒造りに携わる100以上の施設を回り、色々なことを教えていただきました。最初はまったくの異業種から入ってくる私たちに対して「大丈夫なの?」と疑問を抱いた方もいたかもしれませんが、質問すれば色々と教えていただけましたし、次第に本気でいいものを造ろうとしていることを理解してもらえたように思います。

ウイスキーの業界はとても小さいため、横のつながりがあります。ウイスキーは本場のスコットランドでさえ業界が小さく、蒸溜所は130ほどしかありません。日本酒に当てはめたら、ひとつの県の酒造組合です。日本ではまだ20数カ所しかありませんので、みんなでウイスキー業界を盛り上げていこうという空気感があり、後押ししてもらいました。

――ウイスキー製造の前に輸入販売から取り組んだ理由は?

これは多くのことを教えていただいた「ベンチャーウイスキー」をビジネスモデルにし、肥土伊知郎社長のアドバイスを参考にしました。当時は販売網を整備しておかなければ、ウイスキーを造ったところで売れないという時代です。いまならウイスキーは引く手数多ですからよく売れるでしょうけれど、まずは販売で業界に入っておくことが必要でした。

その決断をした2012年のうちに酒類の輸入販売免許を取得し、翌年にはウイスキーの輸入販売事業を始められたので、スムーズに業界に入っていくことができました。2014年には静岡市の山奥で蒸溜所に適した土地を見つけることができ、「ウイスキー事業であればバックアップしたい」と行政にも後押ししてもらえたことで蒸溜所の建設も順調でした。2016年の夏に蒸溜所が完成し、10月には製造をスタートしています。

――ガイアフローの蒸溜所の大きな特徴の一つである「蒸溜機」について教えてください。

私たちの蒸溜所では、2つの蒸溜機が稼働しています。一つは「メルシャン」が所有していた、軽井沢蒸留所から引き継いだ蒸溜機です。この蒸溜機はかなり古く、製造されたのは1950年代で、70年代に再製作された部品を一部交換して使っています。世界中のマニアにとって軽井沢は伝説的な人気を誇る蒸溜所なので、いまもこの土地で動いていることが注目されているようです。全部で4基譲り受けていて、1基が現役で稼働し、2基はウイスキーの熟成庫に展示しています。

もう一つの「薪直火蒸溜機」は、薪で火を起こす世界唯一の蒸溜機です。現在の蒸溜機は一般的に、蒸気の配管をもろみのなかに通す間接加熱という方法が主流になっています。歴史をさかのぼっていくと、ガスの直火、石炭の直火、さらに200年以上前になると明確な資料は残っていませんが薪の直火で蒸溜していたはずです。石炭直火蒸溜を行っているニッカの余市蒸溜所や、スコットランドの直火蒸溜機をモデルに、薪ストーブの専門家の話を参考にして、特注の蒸溜機を造りました。

薪には地元の間伐材を使っていて、丸太のまま蒸溜所に持ちこみ、場内で薪割りをして使います。薪に適しているのは広葉樹とされていますが、この辺りで採れるのはスギ、ヒノキなどの針葉樹です。針葉樹を薪として使おうとしても参考になる情報が非常に少なく、薪の長さや太さ、割り方、乾燥期間を試行錯誤しました。

火力がある反面、燃え尽きやすいので、1時間に2回ほど薪を足しています。作業中は防炎の服を着て、さらにエプロンや手袋、バイザー付きのヘルメットなど対策をしなければいけません。稼働している間は、炎が見えますし熱気も伝わってきます。来ていただいて楽しめる施設を目指した作りになっていますし、蒸溜所としては珍しいので、興味のある方にはぜひ見て体感してもらいたい光景です。

――針葉樹を使うことが難しいことがわかっていながら、薪直火にこだわった理由は?

この蒸溜所の周辺は山林がまだらで、伐採されて山肌が見えているところも植林したばかりの斜面もあります。つまり林業が盛んな地域なのです。世界中の蒸溜所、ウイスキーを見ると、その土地の個性が酒造りに反映されていることが、「このウイスキーが欲しい」と思える要素になっている。それならばこの地域の強みを生かそうと考えました。

まず一番シンプルな使い方として、蒸溜所の施設の内装、外装などに地元の木材を使いました。試飲室のカウンターもヒノキの一枚板を採用しています。そして、建物以外にも反映させようと考えた時に、蒸溜機には熱源が必要で、そこに地元の薪を使えないかという発想に至りました。最初は薪のボイラーを採用することを検討しましたが、家庭用の小さいものや、大きな丸太を入れて24時間フル稼働するような産業用のものしか見つかりませんでした。その時に、いっそボイラーを使わず、蒸溜機の下で薪を燃やすことを思いつきました。

もう一つ理由を挙げると、サントリーの工場長を務め日本のウイスキーのレベルを飛躍的に向上させた嶋谷幸雄さんが、「蒸気ではなく直火で蒸溜した原酒には、長期熟成させた時に何とも言えない良さがある」と仰っていたのです。それなら造ってみようという探究心もありました。私たちが手に入れた軽井沢の蒸溜機は、蒸気による間接加熱ですので直火との比較ができます。そして、完成した原酒を飲み比べてみると、普段からウイスキーを飲まない人でもわかるほどの違いをもった味、香りになっていました。

異なる方向性をもつ味わいになった2つの原酒は、ブレンドすることでバランスが取れて飲みやすくなります。熟成させる前の、原酒の段階でそれだけの違いがありますし、熟成させることでどのように変化していくかがこれからのお楽しみです。まったく違う個性のウイスキーになるのは間違いないと思いますし、それだけこれから造っていけるお酒の幅も広がっていきます。

<記者:平澤 尚威>

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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