株式会社Kisvin 代表取締役 / 醸造責任者
荻原 康弘・斎藤 まゆ(前編)/「世界一」を目指し日々進化するワイナリー

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「世界一」を目指し日々進化するワイナリー
クオリティ“だけ”を徹底的に追求するブドウ作り

山梨県甲州市に「Kisvin」(キスヴィン)という小さなワイナリーがある。代表を務める荻原康弘さんは、祖父の代から営んできたブドウ農家を2001年に引き継ぐと、高品質なワイン用のブドウ栽培に取り組み、ワイン造りに挑むことを決意した。

このブドウで上質なワインを造るためには、優れた醸造家も欠かすことができない。ワイン業界の最先端をいくカリフォルニアで醸造を学んでいた斎藤まゆさんが荻原さんの目に留まり、Kisvinの一員になったのは2013年のことだ。醸造責任者を務める斎藤さんは、“ガレージ”のような小さな醸造所で、ブドウの果実味を強く感じさせる生き生きとしたワインを造り出している。

Kisvinの人々は、良質なワインを造るためであれば、他のワイナリーで導入されていない栽培方法も取り入れ、手間のかかる作業であっても労力を惜しまない。インタビュー前編は荻原さんを中心に、“クオリティだけ”を追い求めるKisvinのブドウ作りや、“世界一のワイン”を目指すという揺るぎない想いについて伺いました。

荻原 康弘さん・斎藤 まゆさん インタビュー


――2013年に設立したKisvinですが、どのような目標を掲げてスタートしましたか?

荻原:ワイン用のブドウを作り始めたのは自分の代からで、目指すのは世界一です。世界一のピノ・ノワール、世界一のシャルドネを造ることしか考えませんでした。日本のワイナリーは、日本のなかのどの位置かを考えがちです。でも、自分たちがピノ・ノワールを市場に出した時点で、日本のワインだとか関係なく、世界中のピノ・ノワールとの比較で我々のワインが評価されます。そのなかでどの位置を目指したいかと言ったら、“世界で一番”がいいんです。

――ピノ・ノワール、シャルドネの他に扱っている品種は?

荻原:Kisvinが所有している畑は30カ所くらいに点在していて、合わせると5haほどの広さがあります。その畑で、赤ワイン用のピノ・ノワールとシラー、ロゼワイン用のジンファンデル、白ワイン用のシャルドネ、甲州などを育てています。

なかでも生産量の多いピノ・ノワールというブドウは、ワイン好きのなかで熱狂的なファンが多い品種です。ピノ・ノワールでワイン好きになったという人や、ピノ・ノワールのためにワイナリーを始めた人もいますし、ある意味“人生を狂わせる”品種です。ワインのブドウは“頭が痛くなるくらい”に甘くないとダメで、収穫時には糖度でいうと22~23度まで上げていきます。酸味もしっかりあるので、ワインの原料としては最高ですよ。自分としても、作り始めたら一番力が入りますね。

斎藤:畑自体は少しずつ広げていて、若い樹が育っていくともっと収穫量が増えてきます。それは、私たちが大量のワインを造れるということではなく、そのなかからもっといいブドウを選べるようになるということを意味します。Kisvinで造る量としては、1万5000本から多くても2万本。私たちは巨大なワイナリーになっていくことをイメージしていないんです。

――Kisvinの畑の特徴は?

荻原:支柱や雨除けのアーチなど畑の設備は、全部自分たちで作っています。業者に依頼した場合は、費用を払って、設備が完成しておしまいです。でも自分たちで作ると材料費と人件費はかかるけれど、技術を習得できます。そこで取得した技術=会社の財産という考え方で仕事をしているんです。例えば台風で何かが壊れた時は、業者も忙しくなるので何番目かになってしまうかもしれない。でも自分たちで作ったものなら自力で直せます。

電気製品などはプロに任せますが、アウトソーシングすべきものは何かを考えメリハリをつけています。畑の設備に2000万円かけたとしたら、それをワインの料金に乗せるのが経営というものですが、それはしたくない。技術を会社のなかに蓄積して、それを会社の財産にしていくのがポリシーです。それが将来、大きなアドバンテージになると思っています。

――ブドウを作るために必要な設備を自分たちの強みにするわけですね。

荻原:業界の人が見たら「そこまでやるんですか」と言われるようなことばかりです。ブドウにかぶせる傘がありますが、一般的なUVカットとは逆で、紫外線をしっかり通すフィルムを素材にして作りました。ブドウにとって紫外線はストレスで、紫外線を浴びると対抗するスイッチが入り、アントシアニンやポリフェノールが順調に生成されます。従来はUVをカットするフィルムばかりでしたが、このフィルムは紫外線を98%ほど透過します。海外のトップクラスの畑を見ると、日光が当たってカリカリになったブドウがあるんです。日本で同じ状態を作れるようにするにはどうしたらいいかを考え、そのフィルムに辿り着きました。

どこにでも売っているフィルムではないですし、型を作り、素材を選び、自前で作っているのでとても高価です。しかも作る時点ではうまくいく保証なんてひとつもありません。でも、フィルムを作ったからといって、ワインの値段を高くすることもない。品質がよくなる可能性があるなら、それを試すのが当たり前だと思っていますし、もっといい形、もっといい素材はないかと毎年見直していきます。

――斎藤さんが、初めて荻原さんの畑を見た時の印象はどうでしたか?

斎藤:粗削りで、改善の余地はたくさんありましたが、「どうしてもいいワインを造りたい」という力強さや意志を感じました。食用のブドウを食べさせてもらったら、それまでに食べたどのブドウよりもおいしいブドウでした。この人となら、美味しいワインを一緒に目指していけると思えたことが決め手でした。

――斎藤さんが畑で仕事をする時間もあるのでしょうか?

斎藤:以前に比べるとすごく短くなりましたね。ワイナリーが6年目になって、入社当時より他の仕事が増えてきたからです。ワイナリーは何年か経つと、樽を入れ替えたり、2年前のワインを瓶詰めしたり、1年目にはなかった仕事が重なってきます。私が畑に出るとワインを触る人がいなくなるので、ワイナリーに比重を置いていますが、入社2年目の若い人材を育てているので、少しずつ畑に戻ってこられるかなというところです。ただ、畑までブドウを見に来て、ダメ出しはしていますよ。(笑)

――ダメ出しというと、どのようなことを?

斎藤:カリフォルニアやブルゴーニュで修行した時代には、“美味しいワインを造っている畑はどのような状態なのか”を頭に刷り込んできました。ブドウはどうあるべきなのか、枝や葉っぱはどう育っていればいいのか。そのすべてを細部まで真似をすることが、日本でも美味しいワインを造る一番の近道だと考え、とにかくそのイメージを荻原に伝え続けました。「この赤さじゃダメ」「もっと青黒くないと」という風に色合いを伝え、粒の大きさや種の熟し方、実と実の間隔などさまざまな要素を伝えると、細かい所まで作り込んでくるんです。

荻原:彼女を選んだ理由の一つが、「世界トップレベルのブドウを、自分の責任で醸造した経験がある」ということでした。自分は色々な勉強をしてきたけれど、収穫時期やその前のブドウを本場で見たことは一度もありません。でも彼女が在籍したカリフォルニア大学には、自分たちの地域で学生たちを育てようという感覚をしっかり持って、日本では考えられないようなクオリティのブドウが寄付されてくる。そういうブドウを想像できても、実物を知らないので、こちらが何を言っても歯が立たない。逆に言えば、そういう人でなければ嫌でした。

斎藤:私のイメージを伝えて「こういうブドウを増やしていけばいいのか」とわかった時に、すごくうれしそうにするんです。「わかった」って言うと、本当にわかっていて、いいブドウを増やしてくれます。

荻原:彼女の要求に応えるには、自分たちが気付かなかったレベルのことをやらないといけない。自分たちの栽培の引き出しをフルに使って、忘れていたことも取り戻しながら試すと近づいてくるんです。今年は6~7月に雨が降り続けましたが、天候をうまく利用できて、今までで一番のピノ・ノワールができました。人間って言葉を発すると、責任が生まれるんですよ。だから斎藤自身も「このブドウを作ったのに、こんなワインかよ!」って言われないようにがんばっていると思います(笑)。

――クオリティを高めるためにやれることは全てやり尽くしているという印象を受けました。

荻原:“クオリティ重視”というとクオリティ以外にも求めている要素があることになるけれど、我々は“クオリティだけ”を追い求めています。色の悪いブドウは全部落としていきます。もったいないなんて思わない。樹も同じで、色の悪いブドウがあったら樹を切ってしまい、いい色のブドウを作れる樹の枝を継いで、畑のなかで良いクローンを作っていくんです。それを毎年続けられるかどうかで、とんでもない差ができる。切ったらもったいないという人もいるけれど、残しておく方がもったいないと考えています。自分たちにとって最高の条件で熟してくれるブドウだけを畑に残して、増やしていくんです

同じ樹のクローンを植えても、100本植えたとしていいブドウができるのは30本くらい。30本は普通、40本は悪いブドウができます。次は良かった30本の枝を、悪い方に継いでいく。そうすると今度は普通と思っていた樹が物足りなくなるので、そちらにも継いでいきます。そうやって、全体が良くなっていきます。

――今後もクオリティを上げることを突き詰めることに集中していく?

荻原:自分たちが良いと思うワインを造りますが、独りよがりになってはいけません。自分たちの能力を進化させながら、トレンドも把握しておく必要があると思います。Kisvinでは赤ワイン用品種「ジンファンデル」のロゼワインを、去年までは「ホワイト・ジンファンデル」として販売してきました。世界のトレンド的には辛口でクオリティが高いロゼは「ジンファンデル・ロゼ」という名称にしようと差別化しています。このワインを飲んでくれたマスター・ソムリエが、「ホワイト・ジンファンデル」ではもったいないと言ってくれたので、ロゼに変えることにしました。自分たちのワインを“ガラパゴス化”させないためです。

2014年に「ホワイト・ジンファンデル」を発売した翌年から、国内の著名なソムリエさんからもジンファンデルについて詳しく質問されるようになりました。そうやって、日本の方たちが知らなかったワインを知ってもらい、数年で浸透させることができたので、“造り手がトレンドを作ることができる”という手応えを感じています。我々が言葉を発しなくても、ボトルが語ってくれるんです。

――荻原さんにとってブドウ作り、ワイン造りの楽しさは?

荻原:ワイン造りで一番楽しいのは、一等賞と言えるレベルをキープし続けることであり、一等賞になれる仕事をさせてもらえていることです。同じものを造り続けてもキープできていることにはなりません。それは退化と同じ。数年前の自分たちを完全否定するくらい進化する必要があります。「これほどのレベルなのに、まだ何かやるの?」と言われる仕事を続けられる人たちが、世界一たりえる。それが実現できた時に、「自分がなにを考えるのか」を知りたいと思っています。

<記者:平澤 尚威>

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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