オクラ合同会社「眼鏡ノ奥山」代表 
奥山 留偉(前編)/技術と対話が生み出すオーダーメイド眼鏡

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「お客さまの背中を押す仕事」
技術と対話が生み出すオーダーメイド眼鏡

東京都江戸川区の西葛西にある「眼鏡(がんきょう)ノ奥山」。店構えはレトロな雰囲気で、店内からは機械の駆動音が聞こえてくる。製作所を併設した店内に入ると、展示スペースには合成樹脂「セルロイド」で作られた、色とりどりでさまざまな形状の眼鏡フレームが並んでいた。その眼鏡はひとつひとつ職人技で磨き上げられたハンドメイドで、美しい輝きを放っている。

代表を務める四代目の奥山留偉さんは、眼鏡を作り出す優れた技術を残すために店を継いだ。繊細な作業が求められるセルロイドの加工技術を磨きながら、それまでは卸しが中心だった販売形態をオーダーメイドに切り替えた。服のようなサイズ展開がないため困っていた人たちのために、大きなサイズの眼鏡を手掛けるようになった。オーダーメイドでありながら、ネット通販も取り入れた。奥山さんは、いいものを提供するためにどう売るか、何を作ったら喜ばれるかと常に考えを巡らせている。

全2回の前編は、セルロイドのオーダーメイド眼鏡が作られるプロセスや、「全員が一から十までできるスキルをもっている」という眼鏡ノ奥山の眼鏡づくりを支える職人技について聞いた。

奥山留偉さん インタビュー


Q:奥山さんが四代目になるまでの経緯は?

眼鏡ノ奥山は戦前に秋田から上京した初代が東京都江戸川区の平井に製作所を構え、今と同じセルロイドの眼鏡フレーム販売を始めました。問屋さんに依頼される卸し販売でスタートし、創業してもう90周年になります。規模や場所の制限はありますが、創業以来、手磨きなどできるだけ手をかけるという姿勢は崩していません。

私は都立工芸高校の金属工芸科に入って、指輪などの調度品とか、金属の板を叩いて立体に作る鍛金などの技術を勉強していました。卒業後は石川県の卯辰山工芸工房という作家さんたちが集まる施設で勉強して、次はそこで出会った教授に教わるため秋田の美術工芸短大で学んで、東京に戻ったのが26歳の時です。ここで培われた技術や考え方は今に応用できていると思っています。私が四代目を継ごうと思ったのは二代目が亡くなった2007年で、この技術を廃れさせるのはもったいないという気持ちからでした。

Q:品質のいい眼鏡を作れようになるまで何年かかりましたか?

自分には基礎的な技術があるからうまくできるんじゃないかと思いましたが、いい眼鏡を作れるようになるまで5年はかかりました。金属を扱ってきたので正直はじめは自信があって、「合成樹脂は柔らかいし大したことないでしょ」くらいの感覚でスタートしました。ですが柔らかい素材になったら、やすりの削り方から傷のつき方など色々なことが違って、きれいな光沢を出すのは金属よりも難しかったです。「触り方ひとつで、売り物にならなくなってしまう業界に入ったんだ」とショックを受けました。全然だめだなと思ってからは毎日のように腕を磨くようになって、もう10年近く経ちますが、最近になってやっと形になってきたなという感覚です。

Q:眼鏡を注文するプロセスは?

お店に直接来てくださる方はまずここで打ち合わせをして、鼻の距離などお顔を測ってから、1か月くらいの納期をいただいて最後にここでまたフィッティングしてお渡しします。インターネットの場合は、今かけている眼鏡の寸法をいただいてそれに合わせていくというケースと、「これで作って欲しい」と眼鏡が送られてくるケースがあります。後者は思い入れのある眼鏡と全く同じにしたいという方が多いですね。

寸法は0.1刻みで測って精度を高めていくんですが、私たちの許容範囲は0.2~0.3ミリくらいです。精度を求めるなら機械で作った方が確実なものができるのですが、そこはみなさん意外とざっくりしていて、雰囲気を大事にされる方が多いのかなというのが正直な印象ですので、私たちも雰囲気を大切にしています。

Q:プロの視点から似合う眼鏡をご提案して欲しいという依頼もできますか?

もちろんできます!業界の王道というか教科書的な基準で、眉や下あごのラインにカーブを合わせるといった押さえておくポイントがあるんですが、それ以外にも普段の洋服のお色や雰囲気とか「強めに見せたいですか?やさしめに見せたいですか?」とご意見を聞いて、「もう少し丸みをつけましょう」とか「下を膨らませるともう少し優しくなりますね」とかアレンジしていきます。背中を押すような仕事をしているので、よくそういうご提案をしていますね。

セミオーダーとフルオーダーがありますが、40種類ほどのベースの形から、ここをもっと膨らませるとか太くするといった打ち合わせをして作るのもセミオーダー扱いです。それが2万4490円で、度付きレンズは別途頂戴しております。ゼロから図面を起こしていくのは時間がかかるので、完全なフルオーダーは4万3200円になっています。

どちらも安いとよく言われますが、一般的に店頭で売られるものは流通のマージンが大きくて、うちは直販なので、卸しで出すよりは利益率はいいんです。けっして自分たちの腕を安く見積もっているわけではありません。

Q:お客様の男女比は?

男性と女性で言ったら7:3でしょうか。私たちが「サイズでお困りの方」という謳い文句を使っているので、お相撲さんとかレスラーさん、巨漢のタレントさんがいらっしゃるというのもあります。ラージサイズを作るようになったのは、洋服にはサイズがあるのにどうして眼鏡にはないんだろう?という原点があって、ちゃんと寸法を分けて作れて誂え(あつらえ)品でセレクトできたらもっと世の中楽しくなれるだろうなと私の代からスタートしました。

デザインの種類が多いのは女性に喜ばれます。ロープライスの店はバリエーションが意外に少なくて、あまり選べないというお話を聞くので、人からリクエストをいただいたデザインで作ったり、たまに自分で思い描いたものを作ったりして形を増やしているんです。

Q:作業は何人体制ですか?

通常は私と父と伯父の3人で作業していて、繁忙期はお手伝いを入れて5人体制になります。それぞれ削ったり、磨いたり得意の領域がありまして、寸法に合わせて曲げ加工する最後の調整は長年の勘が生きてくるので、先代たちにお願いすることが多い作業です。

3人がフル稼働しても1日で作れるのは3、4本です。作業の流れ上はパート分けしていますが、誰もが全工程を担当できる状態にはしてあります。卸し販売で価格が高くなる理由は、磨きは磨き屋さん、削りは削り屋さんと分かれているからです。小さい規模でやるにはみんなが一から十までできるスキルがないとだめなので、誰が休んでも代わりに入ることができて、自分たちで完結できる体制は崩さずいこうと思っています。

Q:手作業のなかに少しだけ機械も取り入れているんですね

いま機械を使っているのは全工程の2割くらいですが、あくまでもセルロイドをカットする糸鋸の代わりで、あとは全部が手作業です。カットするための機械はパソコンと連動していて、フレームの設計図を書くと、そのデータをもとにドリルが動きます。こうした機器は以前と比べると安くなりましたし、卓上化されていて、動かすには知識とスキルが必要ですが、機械とパソコンがあればフリーのソフトだけでここまでできてしまいます。

この機械でフレームを切り抜いてしまうと必要のないところまで削ってしまうことがあるので、0.3~0.4ミリくらいの薄皮を残した形までもっていきます。平らに生成してもらっている生地ですが、それでもうねりがあるんです。そのまま磨いてしまうと、光が乱反射してあまり美しくない眼鏡になってしまいます。そうした生地の癖を見ながら、形を整えていくのが人の手の仕事です。

奥山 留偉(後編)「楽しんで選ぶ新しいカタチ『その場で組み立てられる眼鏡』」

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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