今野製作所/CHERUBIM代表 
今野 真一(前編)/設計図に作り手の思想をどう落とし込めるか

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設計図に作り手の思想をどう落とし込めるか

スポーツ車だけが並ぶモダンな自転車店。年季の入ったレトロなものから、常識を覆すような奇抜なものまで、店内に飾られた自転車はどれもが美しい。隣接する工房からはフレームを成型する機械音が響いてくる。

今野製作所が手掛ける「CHERUBIM」(ケルビム)は、オーダーメイドのハンドメイド自転車フレームを生み出すブランドだ。アマチュアサイクリストから、勝利のために最高の機材を必要とする競輪選手まで愛用者は多い。代表を務める今野真一さんは、北米ハンドメイドバイシクルショー「NAHBS」(ナーブス)に独創的なデザインの自転車「Humming Bird」(ハミングバード)を出展し最高賞を獲得したことで知られ、自転車の専門学校で講師を務めるなど後進の育成にも取り組むカリスマ的な存在だ。

ユーザー一人ひとりの身体と用途に合わせ設計図を描き、それをフレームとして具現化する。自転車工房のある環境で育ってきた今野さんの歩み、自転車フレームの作り手“フレームビルダー”の仕事を聞いた。

今野真一さん インタビュー


Q:ケルビムの歴史や、幼少期に家業をどのように見ていたかを教えてください

ケルビムは東京オリンピックのすぐあと、1965年に父が創業しました。ケルビムというブランド名はクリスチャンだった祖母が決めたもので、神様が乗る天使の名前を聖書からとっています。創業時はお客様からのオーダーのみではなく、メーカーの下請け仕事も多く行っていました。現在のように工房の他にショールームを構えたのは20年前くらいです。

家ではフレームが作られているのが日常的だったので、それが変わった環境とは思っていませんでしたが、学校に進んだら変わった仕事だったんだと認識しました。フレームを作っている会社なので、自転車に囲まれていたというより、町工場で育ったという感じです。父だけでなく母も工房にいて、職人さんが何人かいて。今のように完成車が並んでいるわけではなかったので、外から見たら何を作っているかわからなかったかもしれませんね。

僕も自転車が好きで小中学生の頃はレースに出ていて、周りから教わりながら整備したりいじったりしていたので、中学の頃には完璧と言っていいくらい自転車の組付けができました。いま思うと中学生でそこまでできる人はあまりいませんでしたね。道具が周りにあったし、質問できる人もいたし、教えてもらったというより自分から学んでいった感じです。フレームビルダーになる前に、コンピューターを学びたくて専門学校に通いましたが、卒業した後その業界には進まず、20歳でこの仕事を始めました。その頃には家業を継ぐ気持ちでいました。

Q:フレームビルダーになるための修行は何が必要ですか?

技術より先に、自転車を知ることが第一歩です。設計や図面のこと、二輪車の理論を知るのが前提にあって、そこから溶接などの職人仕事を積み重ねていくことになります。知識を教えてくれる学校は僕の時代にはなかったので、学生時代に教わった内容から自転車に関わるものを自分でいろいろ集めました。溶接なら温度が重要ですし、物理的な知識も必要になる。図面には数学が入ってきます。そういったものを引っぱり出しながら勉強し直しました。

父の代から工房は分業で、1人で1台を作るスタイルではありませんでした。だから最初は助手で、図面も引かないし、車輪を取り付ける部分の下準備をひたすらやったり、パイプを寸法通りに切っていったり。ひとつずつできることを増やしていって、最終的に1人でできるようになりました。いまも全部できるのは僕ともう一人くらいで、それぞれの工程に専門家がいるイメージでやっています。

どのくらいでフレームが作れるようになるかというと、3年と言えば3年だし、30年と言えば30年。ハンドメイドは「完璧な仕上がり」というのが難しい仕事なので、僕も30年続けてきましたがまだまだと言えばまだまだです。例えば僕が教えている学校では3年で教えていて、みっちりやれば形にはなります。でも形だけではないから、乗り味とか性能を突き詰めると大変な仕事になりますよね。そこに深みを持たせるのに10年、20年かかってくると思います。

Q:工房での作業について

生産のペースは1日1~2台、年間にすると350~400台くらいで、オーダーいただいてから順番待ちも含めて6、7カ月くらいかかります。

工房の機材は、父の代から使っているものもありますし、入れ替わってもいますが実は古いものをけっこう使っています。日本には生産が海外に移った時に残った昔の機械がけっこうあって、そういったものを導入しています。父もどんどん新しいことをやる人で、機械を入れたり、コンピューターで図面引いたりするのも新しかった。僕もそういうものを見てきたので、変わっていくことが僕らにとっては伝統という感覚です。昔は「伝灯」という言葉があったそうで、伝えて灯す、つまり新しい油を注いでいくことが本来の意味で、伝統とはその時代で変わり続けていくという意味だと勝手に解釈しています。

Q:オーダーメイド自転車を作るうえで、一番大切なのは?

自転車の全てを決める重要なものが設計図です。僕たちがオーダーメイドの自転車を作る際は、まず用途を聞いて、身体を測り、それを自転車に落とし込んでいきます。脚や胴、腕の長さからサドルの高さ、ハンドルまでの距離などが決まると、自然と前後のホイールの距離なども決まってくるんです。そこから、自転車の性格を用途に合わせて変えていきます。それらを考慮して図面を引いていく時に、作り手の思想をどう落とし込めるかが一番重要です。

自転車の硬さはパイプの素材や太さで変えますが、サイズとも絡み合ってくるので設計の幅広さは無限です。オールラウンドといえるバイクはありますが全てが完璧ではないし、どこかを伸ばそうとしたら、どこかを殺さなきゃいけません。これはプロ・アマ問わず自転車フレーム製作にはとても重要になります。

お客様の層はアマチュアが半分、競輪などのプロ選手が半分という感じですね。アマチュアでも敷居は下がっていて、初めてという方も増えてきました。お客様がある程度自転車を知っている方であれば色々意見をお伺いして作りますし、まだあまりわからない方であればこちらから聞き出しながら設計を決めていきます。なので、僕らがどうしたいかよりユーザーの声をどこまで引き出せるかが一番重要です。そういった経験が貯まっていくことで僕らにもオーダーメイドの知恵がついてきます。

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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