福山酢醸造株式会社 代表取締役
重久政隆(前編)

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「壺畑」が生み出す熟成黒酢
職人の“五感”を重んじる伝統の製法

疲労回復やダイエット効果などが話題となりブームを巻き起こした「黒酢」。その産地として知られるのが、鹿児島のシンボル「桜島」を望む海沿いの町、霧島市福山町だ。この地域は、黒酢発祥の地であり、「かめ壺仕込み」という伝統の製法で黒酢を生産する醸造メーカーが数多く存在している。

そのなかでも、熟成黒酢「純玄米黒酢 薩摩 黒壽」を主力とする創業約200年の「福山酢醸造」は、昔ながらの製法、原料に強くこだわってきた。その六代目である重久政隆さんも、伝統を守り抜くことを重んじている。

全2回のインタビュー前編は、「玄米」「水」「糀」というたった3つの原料から黒酢を生み出す独特な製法や、黒酢を生み出すうえで「『五感』を大事にしている」という職人について語っていただいた。

重久政隆さん インタビュー


Q:もともと、福山町でお酢作りが盛んになった理由は?

福山酢醸造は創業からもうすぐ200年になります。当時は薩摩藩の時代になりますが、福山町の東に位置する都城(薩摩藩領で現在は宮崎県)が米作りの盛んな地域で、福山町の港を経由し、鹿児島方面に運ぶルートが使われていました。米が集まり、いい水が湧く場所、そして壺を持ってくるための物流の便も良かったことから、この地域で酢作りが始まったと聞いています。

Q:入社されるまでの会社の様子や、社長に就任するまでのご経歴は?

福山酢は「ヤマシゲ」という屋号で、ずっとこの土地でやってきました。黒酢ブームが起きた時期に健康のために飲む方が増えたことで会社が大きくなり、昔に比べたら壺の数だけでも3、4倍になっています。お酢を飲まれる方も多いですが、調味料としてのお酢をメインにしてきたという自負があるので、私たちとしてお酢は調味料だという感覚で商品をお届けしてきました。

大学を卒業してすぐ福山酢に入社しました。工場での壺の仕込みなど、お酢を作ることも経験していますが、職人と言えるほど深く携わったわけではありません。その他にも配達や営業など現場を一通り経験しました。先代や先々代も職人というよりは経営者でしたし、経営者としての視点で経験を積むための業務でした。それらの仕事を経て、常務という役に就き、父である現会長が社長を退くときに六代目を引き継ぎました。

Q:お酢の原料や、仕込みの手順は?

福山酢では40~60リットルほどの甕壺を使った「露天かめ壷仕込み」でお酢を作っています。基本は春と秋に仕込み作業をしていて、気温は20度前後くらいがちょうどよく、低すぎても高すぎてもお酢を作るのに適しているとは言えません。お酢の原料は玄米と水と、糀だけです。このなかでも、自分たちの手で種糀から米糀を作る作業には力が入ります。先代である父からも「一にも糀、二にも糀」と言われてきましたし、ここが他社との差が出るところですので、いい糀を作ることが一番大切です。

まず蒸した糀に種糀をまぶして、それから3~7日間かけて乾燥させていきます。壺のなかに「下糀」「蒸した玄米」「水」と入れていって、最後に「上糀」という形で、糀を水に浮かせて蓋をするんです。長く乾燥させたものは水に浮いてきますので、この上糀で蓋をする形になります。

Q:壺のなかで発酵させる期間はどのくらいですか?

ものによって違いますが発酵にかかる期間は2~3カ月です。原料を仕込んだ後は「糖化」といって、玄米を分解して、アルコール発酵で一回お酒になって、さらに酢酸発酵でお酢に変わっていきます。アルコールからお酢に変化する過程では、アルコールとお酢の度数が逆転していきます。焼酎など1週間程度で発酵させるものがありますが、それに比べて期間が長いのは、仕込む時に上糀で蓋をしているためです。空気が少ないため、ゆっくり発酵していきます。

発酵させるまでの環境管理には非常に気を遣います。糀ができるまでの期間と、そのあと壺に仕込んでから酢になるまでの間はずっと気にかけています。大切なことは、時間とともに、発酵の具合を見ていくこと。発酵の進みが悪いものには、いい壺の酢を混ぜてあげたりします。そうすると壺間で発酵を助けてあげることができるんです。そこまでしても、壺ごとに出来上がりが全然違いますので、均一な商品にするために「寄せ壺」と言って、一回くみ上げて、混ぜたものを熟成させていきます。逆に酢になってしまえば、あとは熟成させるだけなので、それほど気を遣わなくても大丈夫なんです。

Q:黒酢は熟成させていくとどのように変化していきますか?

まず黒い色は、壺のなかで熟成させていく段階で、少しずつついてくるものです。そして熟成させるほど味がまろやかになって、「角がとれる」という表現をしますが、酸っぱさにきつさがなくなっていきます。熟成の期間は商品によって分けていて、長いもので2年くらい。限定でさらに長期間熟成させた酢を作ることもありますが、期間が長すぎると大量に作ることができないので商品化はしていません。

Q:原料の仕入れ方は?

玄米は鹿児島県産を中心にしています。ヒノヒカリなど間違いない品質のものを常に仕入れ、糀に関しては昔から変わらず、河内源一郎商店という鹿児島の有名な糀屋さんから仕入れています。

使用している水はこの土地の湧き水です。日本酒なども、水の出る地域で作りますよね。お酢も、一度お酒を作ってから変化させていきますから、いい水が湧く地域に根付いています。自社で掘っていますが、海が近いですから、掘る場所を間違えると塩分を含んだ水が出るから気を付けなさいと会長からよく言われていました。(笑)

Q:職人はどのように育成されていますか?

職人はベテランから若手まで10人ほどいますが、若手は先輩の姿を見て、作業していくなかでさまざまなことを覚えていきます。醸造学や微生物のことなど、理論や知識も重要ですが、さらに大切なのは、昔から教えられてきたことや伝統を受け継でいくことです。私たちは、どの作業をすべき段階なのかを「もうアルコールに変化しているな」とか、「甘い匂いがしてきたな」といった見た目や香りから判断できる「五感」を大切にしています。経験に基づいた“勘”が必要なので、それを身につけるまでが大変ですし時間もかかります。

五感を重要視しているのには理由があります。理論上、お酢を作るためには酵母や酢酸菌を壺に加えることが必要ですが、私たちの壺畑ではそれらを加えなくてもお酢になっていきます。その現象について研究者に話を伺っても、返ってくるのは「それだと酢はできない」という返答です。ですが実際にできるということは、この土地や、そこに生えている草など自然のなかに住んでいる酵母菌や酢酸菌が壺に入って作られているということになります。

木の樽を使う醤油作りでは、“いい菌”が棲み付いた樽でおいしい醤油ができるそうです。壺に関しても、いい酢ができる壺もあれば、なかなかうまくいかない壺こともあります。特に、買ってきたばかりの新しい壺だとうまくできないことが多い。そういった目に見えないものまで感じ取る技能を、職人は身に付けなくてはいけません。

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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