ジャパンキャビア株式会社 代表取締役社長
坂元基雄(前編)

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純国産の最高品質!
宮崎県の力を結集し実現した“ジャパンキャビア”

輸入物が大半を占める日本のキャビア市場において、2016年の伊勢志摩サミットで各国首脳に提供され、有名レストランもこぞって使用する純国産キャビアがある。ジャパンキャビア株式会社の「宮崎キャビア1983」だ。商品化に成功したのは2013年と、業界ではまだ若いブランドながら、すでに各方面から高い評価を受けている。代表を務める坂元基雄さんは、建設会社に勤めながら新規事業としてチョウザメを育て始め、そのことをきっかけに、キャビアを生産する会社を設立するに至った。そんな経歴の背景には、チョウザメの養殖と真摯に向き合った年月、そして国産キャビアの可能性に賭けようという大きな決断があった。

全2回でお送りするインタビューの前編は、ジャパンキャビア誕生に至るまで、試行錯誤を繰り返した年月と、高品質のキャビアを日本で生産する秘訣、さらに驚くほど強い生命力をもったチョウザメの生態などについて聞いた。まだまだ知られていない、キャビアとチョウザメの実態をぜひご一読ください。

坂元基雄さん インタビュー


Q:ジャパンキャビアを設立される前は、全く違う分野の会社に勤めていたそうですね。

この事業を始める前は、建設会社で営業部長を務めていましたが、当時、宮崎県の建設業界で起きた大きな談合事件の影響で、建設会社が次々と潰れていき、私の会社も売り上げが低迷しました。会社に体力があるうちに新たな収益が見込める軸を見つけるため、外回りをしている私が、新規事業の“種”を探してくる役目を任されたんです。思い切って建設業界と関係のない分野でやってみるのも面白いのではと考えたのが、チョウザメの事業でした。

チョウザメはいくつか提案した事業のなかでも極めてイレギュラーな、目新しいものでした。色々調べていくと、卵が育つまでに7年以上かかるため8年、9年収入がないことがわかり、どう考えても事業化は厳しく、普通に考えれば推奨はできない。しかもキャビアが取れるようになっても、加工場を作る費用等がさらにかかりますし、日本で売れるのかも未知数ですから。宮崎県もチョウザメの稚魚を作る技術と、それを産業にするという目的を持っていましたが、事業化は無理だと断念していました。

ところが社長が以前、鮎の養殖をしていたことがあって、水槽が一基だけ残っていたんです。「実験的にそこでやってみるか?」という感じで、宮崎県からチョウザメ50匹を格安で譲っていただいて研究を始めました。

Q:難しい事業を託され、どのように拡大していったのでしょうか?

私がチョウザメの世話をすることになりました。色々な技師の資格はもっていたものの水産関係は全くの素人なので、エサをあげることくらいしかできません。効率のいい育て方も、魚の調子が悪くなった時に何が悪いのかもわからない。3カ月くらいしたときに、一晩で半分くらいのチョウザメが死んでしまったことがありました。自分だけで試行錯誤するのは限界があることを痛感し、県内で養殖している業者さんに育て方を教えてくださいとお願いしました。

話を伺いに行ったら、すでにリタイアされた65歳くらいの方で、「私はこれからチョウザメを育ててキャビアを作るのが夢なんや」と言っていたんです。キャビアが取れるのは70歳過ぎになってしまいますが、「日本でキャビアが作れたらどんなに面白いか」と熱い思いを語ってくださり、私ももっと真剣に取り組んでみようという気持ちが沸き上がりました。

そして、先輩の業者さんたちと一緒に取り組むのなら、ノウハウを共有できないことはもったいないので、協議会を作って、年に何回か集まって情報共有し、展望や方向性を話し合っていくことにしました。

Q:協議会発足から起業までの道のりは?

最初は収入がゼロなので、せめてエサ代くらい稼ごうと、チョウザメの魚肉の販売を始めました。実はチョウザメはとても美味しいんです。ところが売り歩いてみると「サメでしょ?」「サメじゃないんですよ」という話から始まり、消費者の間に蔓延していた「まずそう」というイメージから全く売れません。「海外ではロイヤルフィッシュとも呼ばれる高級食材なんですよ」と話しても、全く受け入れられませんでした。大変ではありましたが、特に苦労は感じていませんでしたね。

その後も試行錯誤を繰り返し、ついに2012年の9月頃、「翌年の春にキャビアが獲れそうだ!」ということがわかり、養殖業者たちが歓喜の声を上げるとともに、大いに慌てました。半年後には採卵できるから、それまでの間になんとかしなくてはいけない。宮崎県の水産試験場がキャビアを加工する技術を独自で持っていて、それを教えることは快諾してもらえましたが、県の技術を一つの民間業者に提供することはできません。そこで急きょ、養殖業者みんなで組合を作って、公共性のある共同体として技術提供を受けることとなりました。

ところが組合の出資金を募ってみると、300万円くらいしか集まりませんでした。そうこうしているうちに卵は大きくなっていくという状況で、私はいずれ起業しようと考え勉強していた最中だったので「これは巡り合わせかな」という思いに至りました。業者がそれぞれバラバラにキャビアを作っても大変ですし、宮崎県のひとつのブランドとしてみんなの力を集めないと成功しない、という意識もありました。

もう一つは、国産キャビアを最初に作った「釜石キャビア」という会社が岩手県にありましたが、東日本大震災で被害を受け、壊滅してしまいました。先駆者となる会社がなくなってしまった状況も後押しして、組合の職員を引き受けようという決断をしました。そして2013年4月に組合を発足し、それがきっかけで現在に至っています。

Q:急いで組合を作ったということですが、チョウザメの卵はできたらすぐに取らないといけないのでしょうか?

例えばですが、ワインのブドウをイメージしてください。ブドウがある程度大きくなってから収穫しますが、熟しすぎるとボトッと落ちてしまう。それと一緒なんですよ。一番いい時期に卵を取らないと美味しいキャビアは作れません。また、チョウザメは養殖環境では産卵をしません。産卵しないとどうなるかというと、自分の栄養素として吸収してしまって、卵がドロドロに溶けていきます。なので開腹して卵を出す作業が必要です。

なぜチョウザメが養殖環境では産卵しないのか?その理由は解明されていません。実はチョウザメは恐竜よりはるか昔の、2億5~6000万年前から地球上にいる古代魚なんです。すごく神秘的な魚で、形を変えることなく、氷河期でさえも生き残っている。エサをやらなくても1~2年は生き延びるほどの生命力がある魚なので、厳しい環境でも生き抜く力があるのでしょう。チョウザメは外見では雌雄がわからないので、お腹を切って卵か白子か判断するのですが、そのあと傷口を留めて水に戻すと、みるみる治っていくほど再生力も高いです。

色々な文献によりますが寿命は100年から長いものだと150年くらい。チョウザメには淡水のものと回遊性のものがいますが、海で育ち、川を上って2年周期くらいで産卵する。サケのように産卵しても死なずに、海に戻って、また帰ってくる。そういうおもしろい魚です。

Q:高品質なキャビアを作るために、飼育の過程で重要なことは?

いいキャビアを作るのに大事なことは、まずチョウザメが健康であること。チョウザメは養殖魚ですが、日本では珍しい「薬品を一切使えない魚」です。養殖に使える薬品は認可が必要ですが、日本にはもともとチョウザメという養殖魚がいなかった。だから「チョウザメに害がない」と認可された薬品も存在しません。逆にそれが、いいキャビアを作るうえで好条件でした。

チョウザメは生命力が非常に強いので、薬を使わなくても育てられる魚ではあります。言い方を変えると、汚い水でも、どんな環境でも生きていけるんです。でもそれを良しとするのではなく、きれいな水を使い、水槽を常に清潔にしておくことで、質の良いキャビアが取れるようになっていきます。

そこまで配慮している国はおそらく日本以外にないでしょう。養殖単価が高くなってしまいますから。海外では大きな池で大規模に養殖している国も多く、中国だと湖全体で育てるなど規模が違います。私たちの場合は大きい水槽でも直径10メートルくらいです。小さい養殖場なので、藻が入らないきれいな環境を作れています。それに、チョウザメを捕まえるのも湖ほど大変ではありません(笑)。

Q:加工作業はマニュアル化されているのでしょうか?

「チョウザメ養殖マニュアル」というものがしっかりとできています。熟練の職人しかできないような作業ではなく、マニュアルに沿って実行できます。ただし、どのタイミングでキャビアを取るかは、それぞれの業者さんの大事なテクニックです。お腹が大きくなっていれば見ただけでわかることもありますが、熟練してくると触ればわかるという人もいます。

キャビアを取るタイミングは科学的にも判別できて、「抱卵検査」というものがあります。お腹から卵を10粒ほど取り出して、卵の大きさや状態を顕微鏡で確認することで、ベストな時期がわかる。そういうノウハウをもっているので、出荷時期もあらかじめ決めておくことが可能です。

Q:その仕組みは宮崎キャビアの大きな特徴ですね。

稚魚を作るのは県の水産試験場、育てるのは養殖業者、キャビアを作るのはジャパンキャビアという分業が、きっちりできています。一般的には1つの会社が養殖して、自分の所で作って、という事業形態が多いです。我々は多くの業者がいることで、キャビアが取れる時期が幅広くなりますし、災害があったときのリスク分散もできています。こうした事業スキームの違いは、他の国産キャビアにはない宮崎キャビアの強みだと言えるでしょう。

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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