独楽工房 隈本木工所 「隈本コマ」六代目 
隈本 知伸(後編)/唯一無二のデザインとコンセプトで創造する木のおもちゃ

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唯一無二のデザインとコンセプト
伝統を守るために創造する木のおもちゃ

九州独楽(こま)を代々受け継いできた「隈本コマ」の六代目・隈本知伸さんは、時代の変化に合わせた挑戦を続け、福岡県で一軒だけとなった独楽工房を守ってきた。そんな隈本さんだが、自らの使命は老舗の看板を守ることではなく、「九州の独楽を作る工房と技術を継承すること」だと語る。
全2回でお送りするインタビューの後編は、コンセプトもデザインもユニークな木のおもちゃにまつわる誕生秘話や、独楽文化を未来に繋ぐための展望などを隈本さんに伺った。

隈本 知伸さん インタビュー


Q:「隈本コマ」の商品に幅があるのは、一部にデザイナーを起用しているからでしょうか?

最初に頼んだのは福岡県でデザインアワードというコンペが開かれた時に知り合った方で、デザイナーであり木のおもちゃも作っていましたが、自分で売ることに限界を感じていて、「隈本さんが引き継いでくれるのであれば作ってくれませんか」という話をしてくれました。そこで作ったけん玉シリーズで、玉に顔を描いた「気分屋けん太くん」は代表的な商品になっています。コンペではお互いに受賞していて、彼の作った商品もラインナップできたことは私たちにとってものすごく追い風になりましたね。

また、大川の家具屋のデザインをされていた方に、「デザイナーズこま」というシリーズを提案していただいたこともあります。隈本コマの商品としては全く異質な大人向けで、世界中の材料を使った高級な独楽です。これほどのものが作れるんだという技術を見せられたので、その独楽があることで、隈本コマを見る目が変わった方もいると思っています。

デザイナーの考えるデザインはとにかく美しさを重要視していますよね。職人泣かせの形状を提案されて、今までに経験したことのない削り方、技術を求められたこともありますが、それもプラスになりました。私がデザインすると、気づかないうちに「こう削ればいい」ということを組み立てながら作ってしまうので、デザイナー作品の方が新しい風が巻き起こるんです。

Q:「ぐっポス」という商品はどういうアイデアから生まれましたか?

これは福岡県との共同で開発したものです。大川市にある「インテリア研究所」の研究員で、子供の姿勢に関心をもった方が10年ほど前から取り組んでいました。子供たちが字を書く時の姿勢の悪さを改善するためには、利き手ではない手を正しい位置に添えればいいと考え、「ぐっポス」の元になる、手を置く道具を紙粘土で作ったんです。それによって姿勢が改善されたというデータがとれていましたが、その当時、紙粘土以外で道具を作る手段がなかったそうです。

それから数年後、隈本コマでは現在の代表的な商品になっている「ラクコマ」を作りました。当時、全国の幼稚園に独楽をお届けしていましたが、回せないまま卒業する子が多いと先生たちから聞くようになり、各地から独楽文化がなくなることをものすごく危惧するようになったのがきっかけです。そこで、日本で一番回しやすい独楽を作ろうと考えるようになり、その時に浮かんだのが、裏に螺旋を入れるという単純な発想でした。ところが、これは従来のろくろの技術では作れません。それならばと「3Dの機械なら作れる」と考え、周囲から反対を受けながらも機械を導入しました。購入しても絶対ペイできるという私の判断です。その使い方を教えてくれる方がインテリア研究所にいて、導入する時にも手伝ってもらうことができ、ラクコマが誕生しました。

ラクコマが完成するとすぐに、その方と一緒に「ぐっポス」の発案者がいらっしゃいました。3Dの機械の話を聞いていたんでしょうね。子供の姿勢を直すための企画があって、機械を導入した隈本コマなら作れるから、共同開発しませんかというお話でした。不思議な縁ですよね。おもちゃではないけれど、これはみんなに喜ばれる商品になると直感して、すぐにやりましょうと答えました。それから半年ほど試作を重ねて形状を何回も整え、ぐっポスの完成までたどり着きました。

Q:ラクコマのために3Dの機械を入れたことが好循環を生んだということですね。

導入したのは、データを作ってしまえば、あとは30分くらいで削ってくれる機械です。3Dの機械を取り入れて私がやりたかったのは手で作れない形状を実現するだけではなく、セットしたら自動で動いてくれて、その間に自分たちが今まで受け継いできた手仕事に集中できる環境を作ることでした。職人が自動の機械を入れるとはどういうつもりだとおっしゃる方もいましたが、私としては、この技術を残すためには必要なんだという思いで導入しましたし、それがうまくハマったと思っています。

「ぐっポス」は九州の独楽を作り続けるために安定して売り上げを確保できて、八女の材料を使うことができ、なおかつ喜ばれるという理想的な商品になりました。ここまでコンセプトがしっかりした新しい分野の商品は、自分が仕事をしていくことでなかなか出会うことはないでしょうし、人のためになる、素晴らしい商品に取り組めたなと思っています。

Q:自社ではどのようなデザインの商品を開発していますか?

いま一押しなのは、想像を膨らませてごっこ遊びができる「コロガルアニマル」です。もともとはレールに球を転がす玩具でしたが、レールにすっぽり収まる形なので音がしませんでした。子供は色や動き、音に反応します。大学でデザインを学んでいた新入社員が、それを考慮して動物の形状を取り入れ、全くの球体ではない新しいデザインにしてくれました。私にはここまでできなかった。話し合っていくことで形にしてくれる人材が入ったことは、すごく心強いですね。

Q:後継者についてはどう考えていますか?

娘が2人いますが跡は継がないと話しています。だからいま在籍している、あるいはこれから入るスタッフで続けていく状況です。でも、逆にその方がいい。「隈本コマ」という名前は、残らなくてもいいんです。私が辞めた後に「九州の独楽を作る工房と、技術が継承できればいい」という考え方なので、名前は引き継がなくても一向にかまわない。「引き継いでくれる人がいる」ことが大前提だと考えています。

一番うれしいのは、これからまた何人かスタッフが増えて、数軒で九州の独楽を作ってくれるようになることですね。作る企業が少ないとジリ貧になってしまいます。周囲の人々からは「おたくは1軒でいいね」と言われますが、逆なんです。何軒かないと、存続していくことは厳しい。ですからそれだけの環境を、私がこれからの5~6年でどのくらいまで作れるかが大事ですね。65歳までにその目途を立てたいと思っています。

Q:独楽文化を継続・発展させていくためには、なにが必要だと考えていますか?

まずは独楽そのものと、遊び方を知ってもらわないといけません。ここ数年は時代の流れで、企業がワークショップとして昔の遊びを学べる場を作ることが増えてきました。私もそういう場に声をかけてもらえるようになったので、本業に支障が出ない距離であればなるべく行くようにしています。それから、自分たちでもそういった活動ができるよう、工房の裏にワークショップルームを作ったんです。私たちが対応できる時期であれば、色を塗ったり材料を研磨して何か作ったりという体験をしてもらえるようになっています。

なぜ知ってもらう活動が必要かと言うと、小さい頃に独楽を回していない子、回せなかった子は、おそらく自分が親になった時に、おそらく子供にやらせようと思わないでしょう。だからできる限り、独楽に触れて、遊べる場を増やさなければと思っています。ワークショップではお好きな独楽を使ってもらえますが、ラクコマは回しやすく、室内でも回せるメリットがあるので小さいお子さんには使ってもらっています。子供が飽きずにがんばって遊ぶと、一緒に来た親も遊ぶようになりますし、親が回せると子供が見直すんです。それと、おじいちゃんおばあちゃんも回せる方が多くて、孫と一緒に遊べますよ。

Q:「隈本コマ」として今後挑戦しようと思っていることは?

これからも、時代に合わせた新たな商品作りが必要です。ニューヨークで活動するデザイナーと、八女の伝統工芸がコラボした新商品を作る計画があり、隈本コマもそれに参加しています。そういう取り組みには私ではなく、若いスタッフを参加させたいなと考えています。

続けてきたことに縛られるのではなく、新しいことにも取り組んでいき、しかもそれは経費や時間がむやみにかかるものではなく、地に足がついている必要があります。ただ、いま在籍しているスタッフは、そのあたりは黙っていてもやってくれる人材なので、私としては安定した売り上げを65歳までに作り上げるのが一番の役目でしょうね。そして、それを次の世代に引き継ぐこと。若い人が入ってきているので、これから先が楽しみで仕方ありません。

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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