関谷醸造株式会社 代表取締役 
関谷 健(後編)/日本酒の楽しさ伝える、新しい時代の造り手

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「お客さまの人生を豊かにするサービス業」
日本酒の楽しさ伝える、新しい時代の造り手

1864年創業の「関谷醸造株式会社」は、愛知県北東部、奥三河地域の設楽町に蔵を構える酒造で、「蓬莱泉」(ほうらいせん)ブランドで日本酒ファンから知られている。この土地で育った米で地酒を造るため、リタイアした農家から田を借りて自社栽培を行い、酒造りの作業をより正確にするために工房に機械を導入するなど、老舗ながら伝統を守るだけはなくより良い品質を求めた挑戦を続けている。

インタビュー後編は、「造り酒屋は、サービス業だと思っているんです」と語る七代目・関谷健社長に、日本酒の楽しさを伝えるために取り組んでいる事業・サービスの数々を教えていただいた。ぜひご一読ください。

関谷 健さん インタビュー


Q:酒造りの工程において大事にしていることは?

「正確に作業して造る」ことだと考えています。私たちは商品ごとに「こういう味にしたい」とか「お客さまにこんな風に飲んでもらいたい」というゴールを設定して、それに向かって米を選び、どのように発酵させていこうかと造り込んでいきます。そして、いかに自分たちがイメージしたゴールに導けるかが、酒造りにおいて大切なことです。

これにはさまざまな意見があるかもしれませんが、一つ一つの工程が品質に現れるので、酒造りの評価は“減点法”のようだと思っています。いい米が手に入れば100点からスタートできるわけです。さらに精米をする時に、割れも少なく思い通りにできたら減点なし。でも米を洗う時に思い通りに水を吸わなかったら減点、麹を造る時に想定より固くなってしまったらまた減点。そうやって減点が積み重なっていったとしても、お客さまから及第点をいただける以上の品質になるか、その銘柄の商品として出すのに足りる味かどうか。素材を生かすには、その基準をクリアするための正確な作業が重要だと考えています。

商品として目指すゴールは、造るメンバーだけでなく販売するメンバーも意識しておく必要があります。そうでないと、お客さまに飲み方をアドバイスすることもできません。私たちは、商品に込めた想いや概念、コンセプトを共有するための場を社内で定期的に作って、唎き酒した後に、営業や販売に携わる社員と、造り手が議論できる場を年に数回作っています。造り手の想いを受けてどのように販売していくかを考えたり、あるいは売る側の要望を受けて、造り手が酒のコンセプトを模索したり。そうやって考えを深めていくことは、社員のモチベーション向上や意識管理にも繋がると思っています。

Q:「ほうらいせん吟醸工房」とはどのような施設ですか?

いまでこそお客さまの体験施設にもなっていますが、2004年に造った当初は、少量多品種の製品に対応するための、将来的な展開を見据えた施設でした。問屋さんや酒屋さんに1000本規模で買ってもらえるような、オーダー製品を造る蔵というイメージです。通常のタンクですと一本につき5500~6000本くらいになってしまいますが、それだと多過ぎてまるまる買っていただくわけにはいかないので、もう少しロットの小さい、小回りの利く商品を提供したいという狙いでした。設楽町の直販所がいっぱいだったので、もう少し名古屋に近い所に造れたらということもあり、お隣の豊田市に造りました。

ところが1000本単位のご注文は想定していたよりも少なくて、はじめは「やってしまったかな」と思っていました。そんな状況で1人の社員が出したアイデアが、酵母を培養するための「酒母タンク」という小さなタンクで酒を造れれば、4合瓶で100本くらいになるというものでした。たしかに100本なら買ってもらえるかもしれないと思い、その大きさで造ってみました。すると、結婚式の引き出物など、量を少なくすることで需要が広がり、ヒットにつながったのです。

この施設は小さな規模で、手造りができるので、酒造りを覚えるための社員研修にも使うようになりました。さらに、当時は蔵見学も増えていた頃で、階段を何度も上り下りする本社蔵ではなく、ぐるりと見渡せばそこで完結する吟醸工房を見学していただこうと。そのうち、酒造りをしてみたい方も多いことがわかってきたので、体験して楽しんでいただけるシステムも作りました。「酒のオーダーメイド」は味わいやラベルなどさまざまなオーダーができますし、お米を持ち込むこともできます。稼働率はかなり上がっていて、2019~20年シーズンの12月まで入っている状況です。

Q:蔵以外の施設では、飲食店も経営されているんですね。

名古屋市で「SAKE BAR圓谷(まるたに)」というバーを展開しています。これは、酒造メーカーとして日本酒文化の楽しさ、面白さを発信することにも取り組まないといけないという想いから始めました。江戸時代の末期に建てられた、古い商家の米蔵をリノベーションした店です。スタッフには、日本酒とお食事のペアリングを提案できて、お客さまのご要望通りの温度にお燗をつけられるようきちんとスタッフトレーニングしています。

Q:日本酒の良さを「伝える」ことも大事にしている?

造り酒屋は製造業ですが、私はサービス業だと思っているんです。何のために酒を造っているかというと、アルコールを含んだ液体を製造して、それを飲んだ人に酔っ払ってもらうためではありません。関谷醸造の酒を飲んで楽しい時間を過ごしてもらったり、蔵で酒造り体験を楽しんだ結果としてお酒を買っていただいたり、圓谷であればお客さまが「この酒はこうやって飲むとおいしいんだ」と店で覚えて、家で新しい飲み方を試してくれたら、その人の食生活がより豊かになる。「日本酒はあまり好きじゃなかったけどおいしい!」とイメージが変わることがあれば、その人の人生にとってプラスになります。

日本酒業界は、ただ単にアルコールを含む液体を安く造って、それをばら撒くような売り方をしてしまったために低迷が止まらなくなってしまいました。そのような姿勢ではなく、それぞれの造り酒屋さんが、お客さまにどう楽しんでいただくかというエンターテイメントであり、お客さまの人生を豊かにするツールだという意識でビジネスを展開できれば、もっと日本酒は売れていいし、売れないとおかしいくらいの魅力があると思います。私たちもそんな気持ちで、蔵の見学や体験プログラム、オーダーメイドといったサービスを提供しています。

Q:今後、さらに挑戦してみたい取り組みはありますか?

農業の方をもう少しブラッシュアップして、自分たちで作っている米というだけではなく、有機栽培や、無農薬・無化学肥料での栽培に挑戦してみるのもいいかなと思っています。“ストーリー性”のある原料を作って、こだわりをご紹介できるような米ですね。日本酒はワインより安いとよく言われますが、たしかに安いと私も思っています。かといって、プレミアムがついているとか、高い容器を使っているとか、ただ高くするだけではお客さまが離れてしまう。ですから、お客さまが「これ欲しいな」と思うきっかけになるような、きちんとしたストーリーやテーマを盛り込みたいです。それができたら、どんなに面白い商品が造れるかなと、そんなことを考えていますね。

<記者:平澤 尚威>

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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