高砂電気工業株式会社 代表取締役社長
浅井 直也(前編)

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医療用機器から宇宙ロケットまで!
「世界に一つ」「一番小さい」多種多彩なバルブ・ポンプ

医療用のバルブ・ポンプを中心に取り扱いながら、「要望に応じた設計・開発」という中小企業ならではの発案力と、「世界で一番小さいバルブを作る」という技術を買われ、宇宙ロケットのバルブ開発にも携わるようになった。まるでテレビドラマ『下町ロケット』のストーリーを彷彿とさせる企業が、愛知県名古屋市に存在している。
創業60年を迎える高砂電気工業株式会社は、数個の注文でもオーダーメイドで製品を作り出す「カスタマイゼーション」、小さいバルブをさらに小さくする「ミニチュアライゼーション」、バルブ・ポンプを最適に組み合わせた流体制御システムを提案する「インテグレーション」といった技術を生かし、“少量多品種”を特長に10,000種近い製品を生み出してきた。こうして蓄積してきた開発力や知識をフル活用して、三代目:浅井直也社長の就任以降は、「NASA」(アメリカ航空宇宙局)や「JAXA」(宇宙航空研究開発機構)のプロジェクトにバルブ・ポンプを提供するなど、主力である医療の分野を飛び出して新規事業に挑戦してきた。
全2回のインタビュー前編は、異色とも言える浅井社長の経歴や、オーダーメイドのバルブづくりについて、そして「月面で醸造するビール」や「深海生物のDNAをリアルタイムで解析する潜水機」といった、高砂電気工業が携わってきた驚きのプロジェクトの数々をご紹介いただいた。

浅井 直也さん インタビュー


Q:高砂電気工業の主な事業を教えてください。

バルブやポンプを中心に、流体(液体やガス)を制御するための「流体制御機器」の設計・開発・生産をしています。『下町ロケット』でもロケットのバルブを作っていますが、主人公が経営する佃製作所にとって、あの事業の売上はそれほど大きくないでしょう。主力製品が別にあるのは、我々も同じなんです。一見すると派手なロケット、人工衛星、深海、iPS細胞といった分野の事業を展開していますが、それは一部でしかありません。

Q:浅井社長が、高砂電気工業に入社されるまでの経緯は?

高砂電気工業は創業が1959年。出資者でもあった非常勤の初代社長がいて、創業者である父が二代目、私で三代目になります。父は完全に技術者でしたが、私は100%文系です。私は小学6年生の時に母親を亡くしていて、その遺言が「子供たちに会社を継がせないで」というものでした。ですから高砂電気工業に入社する可能性は全く考えておらず、大学では法学部を選び、現職と全く違うNHKに就職しました。NHKといっても私は番組制作や報道には関係ない経営管理という職種です。就職活動中は「世の中の役に立つ組織で仕事をしたい」という気持ちがあり、そのなかの一つがNHKでした。

入局してしばらく経った頃から、父が「本当は会社を継いで欲しいんだ」という話をし始めましたが、自信もないし無理だとずっと断っていました。父は、「会社たるもの赤字は絶対に出してはいけない」といつも言っていましたし、社員だけでなく販売店の社長さんに対しても非常に厳しい経営者でした。私はとてもそこまで厳しくすることはできませんし、私が経営したら会社が潰れてしまうのではと悩んでいました。ですが、会社経営をしている母方の叔父に、「お前が潰すならお父さんも本望じゃないか」というアドバイスをもらったんです。親族経営だから言えるようなものですが、その時に、自分がやりたいようにやろうと思えたことが決め手となり、高砂電気工業を継ぐことになりました。

Q:高砂電気工業という企業の強みは?

我々の強みだと考えているものが3つあります。それが「カスタマイゼーション」「ミニチュアライゼーション」「インテグレーション」です。バルブなどの製品をオーダーメイドのように設計・開発するカスタマイゼーションは、創業以来60年以上の伝統があります。インテグレーションは、複数のポンプやバルブを最適な選択、配置で組み合わせ、お客さまの要望に沿った流体制御システムを提案するサービスです。

高砂電気工業は服に例えると、大量で高機能、高品質で、なおかつ低価格という「ユニクロ」のような会社ではなく、“町にあるオーダーメイドの服屋さん”です。お客さまが来たら「何を作りましょう」「素材はどうしましょうか」と聞いて、採寸して手間ひまをかけ、値段は高いけれど、お客さまの好みや体にぴったり合った、世界に一つしかないものを作っています。

そして、私が入社した頃に力を入れ始めていたのがミニチュアライゼーションでした。我々の主力製品である小さいバルブを、もっと小さくしようという取り組みです。入社して最初の仕事は、部品を一から加工する作業で、次に設計を担当する部署に移り、そこでは当時一番小さなバルブを作っていました。

製品の設計・開発には“生みの苦しみ”が伴うものですが、ものすごく苦労したという印象があまりないんです。というのも、ものづくりの難しさにはいくつかの段階があって、すぐに解決できる問題もあれば、課題が与えられた時にすぐには答えが見つからず、壁にあたることもありました。でも私はそこが一番好きで、解決策が思いついた瞬間が一番楽しいと感じていました。生みの苦しみを味わうことは、開発エンジニアにとって重要な体験なんです。

Q:先ほどおっしゃっていた主力製品について教えてください。

高砂電気工業の製品の主要な用途は「分析装置」というもので、血液を扱う装置であれば医療の分野になりますし、そのほかに排気ガス自動分析装置や、水質分析装置などさまざまな用途があり、こうした分野への売上が全体の約8割を占めています。先代の頃から黒字経営がずっと続いていますが、それは父が分析市場に特化してくれたことが、ものすごく大きかったと思っています。バルブは、自動車や洗濯機、温水洗浄便座など多岐に渡る製品についています。いま例に挙げたものはどれも生産台数がものすごく多いですが、分析装置を見たことのある人は少ないのではないでしょうか?少なくとも家庭には置いてないと思いますし、分析装置というものは少量多品種なんです。大企業にしてみるとメリットが小さく、我々のような中小がカスタムで生産するにはちょうどいい。仮に自動車や温水洗浄便座を扱っていたら、いまの高砂電気工業にはなっていないでしょう。

温水洗浄便座のバルブは単価が200~300円ほどと聞いていますが、血液分析装置でよく使うバルブは2000~3000円。それが航空用になると数万円、ロケット用のバルブになると、中には1個で自動車が買えるほどの価格まで桁が上がるものもあるんです。我々はある国産ロケットのバルブ開発に取り組んでいますが、1機につき8個のバルブが必要で、2年に3回打ち上げるので年間12個のバルブを作ります。その開発となると、いくらバルブの単価が高いとはいえ大企業にはできません。

我々は主力ビジネスである分析装置で安定的な収益を出していて、それをベースに、新規開発という種まきをしています。いま我々が注力している宇宙も再生医療もまだまだ利益を生み出してはいませんが、続けていられるのは分析市場のおかげです。50年以上前に、多様なニーズが少しずつ存在している市場を選んでくれた先代の先見の明が、いまの私たちを助けてくれていると思っています。

Q:生産工場ではどのような作業をしているのでしょうか?

高砂電気工業は少量多品種なので、フルオートメーションには向きませんし、かなりの工程が手作業です。力のいらないラインには女性も多く配置されていますね。少量多品種ということは、「この前に作ったのは3年前だった」ということもあるので全ての作り方を覚えておくことはできません。わからなくなってしまうことを防ぐために、部品を組み立てる時には「作業指示システム」といって、パソコンの画面に指示が出るようにしています。手順や注意すべきポイントを把握しながら作れるという仕組みです。

作業手順書を紙で共有している会社が多いのですが、我々はデータベース化することでパッと出せて、作業している人たちが、気が付いたことをその場で入力できるようにしています。ここに気をつけなさいというメッセージを残すことで、数年後でも生かすことができる。それが少量多品種を実現する工夫の一つです。

Q:多品種の製品を作っていますが、今までに驚いた依頼内容は?

印象に残っているものといえば「月面ビール」です。月でビールを醸造して、宇宙空間での酵母菌の働きを調査するというプロジェクトで、最初に聞いた時はびっくりしました。ここでは、月面で麦汁と酵母を混ぜ合わせ発酵させるための装置に、我々のバルブが使われています。それから、世界中の海にブイを数百個浮かべて、数百カ所の観測拠点で海洋CO2濃度を測り、地球温暖化の観測をするという構想にも驚きました。

あとは「ハイパードルフィン」という、海底まで降りられる無人潜水機にも関わっていて、それは深海生物を捕まえ、海底で遺伝子検出をするというものです。昔はサンプルを取って船の上に引き揚げ、実験室に持ち帰って分析していたので、画期的な技術です。今ではそれが応用されて、レアメタルのような海底の希少資源を分析することにも使われていると聞いています。また、NASAの研究機関から、火星に関するミッションの依頼が来たこともあります。火星にロケットを飛ばして土の成分を分析することで、かつてそこに生物がいたかを確認するというプロジェクトに、特殊なバルブが必要だから作ってくれないかという話でした。残念ながら注文はもらえませんでしたが、問い合わせとしては非常に印象に残っています。

2019年1月には、JAXAの「イプシロン4号機」が打ちあがり、そこから7基の人工衛星が放出されました。そのうちの一つが「人工流れ星」といって、宇宙エンターテイメント事業を展開する「ALE」(エール)というベンチャー企業が立ち上げたプロジェクトで、衛星から小さい金属球を放出し、大気圏で燃え尽きて流れ星のように見える瞬間を人工的に作り出そうと言うものです。その球を放出する装置に高砂電気工業のバルブを使ってもらっています。

Q:NASAなど海外から声がかかるようになったきっかけは?

今までのところ、我々がNASAに採用してもらった製品は、宇宙機や航空機と呼べるものではありません。国際宇宙ステーションのなかで実験するため器具なんです。そのうちのひとつは、注射器のような「シリンジポンプ」というポンプで、工業製品としては世界最小です。宇宙実験室はスペースにものすごく制約があって、1キロの重量物を運ぶのに数百万円かかる世界ですから、どれだけ軽量化するかが重要になります。つまりNASAが採用してくれた理由は単純なことで、世界で一番小さくて軽いポンプを作ったからなんです。これは我々が得意としてきたミニチュアライゼーションの成果と言えるかもしれませんね。

→浅井直也(後編)を見る

<記者:平澤 尚威>

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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