高砂電気工業株式会社 代表取締役社長 
浅井 直也(後編)/無理難題のオーダーに応える“工業製品の匠”

0Like&Share

Facebook

LINEで送る

無理難題のオーダーに応える“工業製品の匠”
エンジニアの発想力が鍵を握る現代のものづくり

愛知県名古屋市の高砂電気工業は、医療用のバルブ・ポンプを中心とした事業を展開し、「カスタマイゼーション」という要望に沿って開発するサービスや、オーダーに沿った流体制御機器の組み合わせをシステムとして提案する「インテグレーション」、製品の小ささを追求する「ミニチュアライゼーション」によって世界一小さくて軽いポンプを作り出すなど、独自の技術を磨いてきた。それがNASAの目に留まり、国際宇宙ステーションの実験器具に採用されるなど、夢のようなプロジェクトを次々と成功させている。

浅井直也社長のインタビュー後編は、「カスタマイゼーション」を実現するために欠かせない、“工業製品の匠”とも言える人材について、そして開発力の根幹となる「技術の引き出し」を蓄え続ける秘訣を聞いた。

→浅井 直也(前編)を見る

浅井 直也さん インタビュー


Q:エンジニアが一人前として認められるまではどのくらいの期間が必要ですか?

いまはバルブを専攻で教えている大学はおそらくありませんので、専門として入ってきた人は皆無です。機械や化学、生物などを学んできた人たちにバルブ作りを一から教えます。標準的なバルブの設計ができるようになって、一人前になるには3年くらいでしょうか。

ですが本当に難しいのは、お客さまの要望を実現する発想力で、これは時間ではなくセンスの要素が大きいです。できる人は簡単にできますし、そういう発想がない人には難しい。求められる能力が違います。設計力は真面目に勉強していけば身に付きますが、発想力は勉強のしようがありません。エンジニアは設計グループと新規開発グループで分かれていて、新規開発グループはもう、はっきり言って遊んでいるように見えますよ(笑)。でもそういった仕事のなかから新しい発想が生まれ解決策が見つかるんです。

新規開発エンジニアは変わり者が多くて天邪鬼(あまのじゃく)ですが、変わっていないと新しいことはできませんよね。ものすごく負けず嫌いで、「できません」と言うのがイヤで、難しい課題に対しても「なんとか考えてやるぞ」というメンタリティーを感じます。それと、人と同じ回答を出したくないから、自分オリジナルの解決法を生み出し、実現することを喜んでいるようです。今後もそういった人材を探し出して、育てていける体制を作っていきたいと思っています。

Q:社員が育つためにはチャレンジが必要ですが、失敗を許す風土があるのでしょうか?

それがキーだと思っています。高砂電気工業は年に400の新しい図案を起こしていて、実働日が約200日あるので、毎日2枚ずつ図案ができてくるハイペースなんですよ。人数からすれば多産型ですので、若手エンジニアのスピードを確保するなら40~50代のベテランが指示した方が断然早く仕上がります。彼らは過去の引き出しを探ればぱっと出てくるので、売上のベースとなるような製品を次々と開発することに長けているからです。

ですが、若い社員からはもう少し失敗を認めてもらいたいという要望もきます。そこはバランスですよね。彼らの言う通り小さい失敗は必要ですが、会社として大きい失敗はできません。どのくらい口を出すかという、閾(しきい)値がものすごく重要です。

Q:社員のモチベーションの維持管理はどのようにしていますか?

航空宇宙の分野が面白そうだと門を叩いてくる人も多いですが、我々の主力は医療です。命を守る仕事をお手伝いしていますので、そこに興味をもってもらえるケースが半分以上だと思っています。私が入社した頃は航空宇宙に取り組んでおらず、医療が“売り”でした。そこから『下町ロケット』のように航空宇宙の分野にも取り組むようになってきたことで、従業員さんのモチベーションが上がったり、就活中の学生さんたちには魅力的に見えたりしているかもしれません。私が直接モチベーションを上げるよう働きかけなくても、従業員さんがやる気をもってもらえる事業構成にすることは、社長としての自分の仕事なのだと思います。

Q:カスタマイゼーションに応えるうえで、開発コストはどのように設定していますか?

開発期間が長くなりそうな依頼に対しても、コスト面では割り切っていて、製造原価に利益を乗せるだけで、多くのケースで開発コストはお客さまに請求していません。製品を作るための準備を「段取り」と言うんですが、生産数が1個でも1万個でも、加工機を動かして形状を作るには同じだけ段取りがいります。大量生産するビジネスモデルであれば、一度段取りしたら同じものを作り続ければいいわけですから、わずかな準備期間のコストはゼロに等しいわけです。

我々は半日準備して、1個作っておしまいということもあるので、本来ならものすごくコストがかかります。ですが、半日分の人件費と機械の占有費はいただくだけで、エンジニアたちが「この問題はどう解決しようか」とディスカッションして、あれこれ考える“生みの苦しみ”を伴う期間に関しては、基本的に費用をいただいてないんですよ。なぜかと言うと、高砂電気工業はこれまでに10,000種近くの製品を世に送り出し、構想だけで終わってしまったものも含めれば何万という体験を積んできました。それが、我々の一番の強みだと思っているからです。

細胞や宇宙などあらゆる問い合わせをいただき、それに応えてきたから、我々には技術の引き出しがたくさんあるんです。他の会社だとなかなか考え付かない、あるいは時間がかかるようなことでも、私たちは「こんなことを昔やったよね」と引き出しを開ければ解決できるケースが出てきます。仮に生みの苦しみを味わったとしても、それで引き出しが新たにできて次に生きてくるわけですよね。だから我々はエンジニアの構想の工数は、多くの場合お客さまに請求していません。無理難題に対しても、経験に基づいた自信がありますので、バルブに関する案件はほぼ引き受けています。我々はそうした積み重ねをもとにご提案できる“流体制御のコンシェルジュ”でありたいと思っていますね。

Q:今後、どのような姿勢で、ものづくりに携わっていきますか?

「Grateful Japan」は“匠”の方々を取り上げていますが、匠というと、日本の伝統技術がどうしても思い浮かびますよね。高砂電気工業がどういう仕事をしているのか改めて考えると、我々も匠だと捉えることができると思うんです。技術にはいろいろな形があって、企業によっては最先端の設備で、最先端の技術を磨いているところもあります。ですが、我々の技術は決して最先端ではなくて、人に宿っているものです。エンジニアの頭に、引き出しが入っています。それは匠の技に近いものだと思いますし、人に宿った技術をどう引き継ぐかという苦労も、匠と一緒かもしれません。

多くの匠は主役ではありません。歴史に名が残らず、彼らの作ったものが、作品として残っている。我々がやっていることも、形としてバルブは残りますがあくまでも脇役です。iPS細胞の培養装置を例にすると、細胞を発見してノーベル賞を受賞したのは山中伸弥先生です。その応用として、iPS細胞を用いた再生医療を普及させる過程では、我々が作った細胞培養の道具を使っていただくことで、研究がさらに進んで行くという面があります。

最先端の研究所のみなさんが思い描いたアイデアを形にして、普及型の装置に落とし込む段階までお手伝いさせていただいて、それが広まったら、大量生産を得意とする企業に作ってもらえればいい。我々はそこでお役御免です。中小企業として生き残っていくために、そして注目してもらえるような企業であるためにも、今後もこうした匠のような仕事をしていけたらと思っています。

<記者:平澤 尚威>

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

フォローしてSNSで最新情報をチェック >>

Facebook

LINEで送る