恵川商事株式会社 代表取締役 
安藤 孝平(前編)/湯垢を取り除くアイデア商品「アカパックン」

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風呂の湯垢を取り除くアイデア商品「アカパックン」
障害者や高齢者が働く「人に優しい生産環境」

皮脂が原因で風呂に汚れが付着する、「湯垢」と呼ばれる“ぬめり”。転倒事故にもつながるこのぬめりを、簡単に取り除くことができる「アカパックン」という便利グッズがある。ぬいぐるみのような可愛らしいデザインで、浴槽に入れておくだけで皮脂を吸着してくれる。このアカパックンが誕生した背景には、卸問屋を営んできた恵川商事株式会社の二代目、安藤孝平社長の「社会貢献になる商品を考案したい」という想いがあった。

生産は障害者が働く「授産施設」に託し、毎月3000個を発注する約束でスタート。安藤社長は売上が伸びず、大量に在庫を抱えても「ここでやめたら、障害者の方たちの仕事がなくなってしまう」と奔走し、ピーク時で年間65万個を販売するほどの商品に成長させた。

安藤社長への全2回のインタビュー前編は、アカパックンの開発からヒットに至るまでの数々のエピソードや、授産施設での生産環境について語っていただいた。

安藤 孝平さん インタビュー


Q:ヒット商品「アカパックン」を開発したきっかけは?

アカパックンを開発したのは2003年で、ちょうど父から会社経営を継承する頃でした。恵川商事はもともとタオルなど日用品を扱う卸業をしていて、私が入社した頃は老人ホームへの販売などを始めて順調に成長していました。仕入れや営業をやっていましたが、5~6年ほどで、インターネットの普及や通販会社の新規参入などによって、売上が年々落ちてしまったんです。老人ホームや病院、工場と取引をしていて、注文から4日ほどの納品や、1週間ごとに配送するペースでうまく回っていましたが、一気に世の中が変わってしまいました。営業をしていた部下も、毎回のように値段交渉されるようになったと言って、疲弊している状態です。そこで何か、自分たちで値段が決められるフラッグ商品を作れないかと考えるようになりました。

商品開発に取り組もうかと思っていた頃、私は5歳8カ月の娘を医療事故で亡くしていて、それが社会貢献したいと考えるきっかけになりました。娘は幼稚園で、トイレの時間にみんなが使ってぐちゃぐちゃに脱ぎ捨てたスリッパを、全部並べ直していたそうなんです。指示されたわけでもないのに、みんなのためを思った行動でした。亡くなった後にそれを聞かされて、「すごい子だったんだな」と思って自分を振り返ってみると、自分のことしか考えていないことに気付かされました。それ以降、商品が売れたらいいという発想が中心だった自分にも、なにか少しでも貢献できることを探そうという意識が芽生えたと思います。

その時期に気になっていた社会問題が、高齢者の風呂場での転倒事故でした。それが原因で亡くなったり、寝たきりになったりという報道が当時は頻繁にありました。老人ホームと取引させてもらっていたので、これは自分にとっても関心のある出来事でした。そこで、風呂場で滑る原因になっている「湯垢」の成分はなんだろうと調べたところ、油が70%を占めているということがわかりました。この油を取り除ければ、世の中に貢献できそうだと思ったのが商品開発の始まりです。

Q:そんな想いで開発を始めてから、完成まではどのような道のりでしたか?

恵川商事はガソリンスタンドにもタオルを納品していて、そこには油を吸う素材の「オイルウエス」があったんです。海で原油タンカーなどの事故があった時に使える素材だということで、風呂場の油を吸うにはこれがいいと直感しました。ところが、そのまま風呂に入れたら見栄えがよくない。どういう形状にしようかと悩まされましたね。

そんな時に、ある靴下メーカーと出会い、作りたい商品のアイデアを社長さんと話していたら、靴下を裏側からくるっと捲って、「こうしたら丸くなるじゃないか」と見せてくれました。靴下でボールを作るイメージです。いまのような顔もない状態ですが、そのアイデアをもとに作ってみたら、機能的に優れた試作品ができました。販売先を探して「東急ハンズ」に持ち込んだところ、同じ機能の商材はないからいいけれど、もっと可愛くして欲しいという意見をいただきました。

次はデザインを決めようということで、依頼したデザイナーが作ってくれたのが、目が横長で、くちばしがついているという河童のようなキャラクターでした。早速そのデザインで作ってみたら、うまいこと全く同じ顔で仕上がったんです。靴下を裏から捲ると、踵(かかと)の部分がちょうどくちばしのようになるので、それがデザインに生かされています。名前はシンプルに、垢を吸うからアカパックン。さらに河童について調べてみたら、きれいな水にしか住めないという特徴があって、「これはちょうどいい!」と。特徴がうまくリンクしたので、これをブランドイメージとして商品を完成させ、東急ハンズでも販売させてもらうことができました。

Q:アカパックン発売後の売れ行きはどうでしたか?

アカパックンの生産は障害者が働く「授産施設」に外注していて、毎月3000個発注しますと約束していました。発売当初はタイミングよく新聞に掲載された影響で一気に売れましたが、新聞の効果も2カ月ほどしか続かないので、そこからが勝負でした。月~金で営業して、土日は東急ハンズの店頭で販売するという生活を始めましたが、それでも3年半で4万個以上の在庫ができてしまいました。

それまでの卸問屋としての感覚だったら、売れない商品はやめるのが普通なので、3年も引っ張らなかったと思います。だけどそこでやめたら、障害者の方たちの仕事がなくなってしまう。このままやめていいのかと悩んでいた頃に、続けることを決めたエピソードがありました。アカパックンをサンプルとして店頭に置いておくと、色々な人が触るうちに伸びていってしまいます。それを気にかけて、作っている子が店頭に行って、「これだと形が違う」と直してくれていたんです。それを知ったら、簡単にやめられない。もうちょっとがんばろうと思いましたね。

Q:売上が伸びない状況から好転した要因は?

メディアで取り上げられるようになった影響が大きかったです。北海道洞爺湖サミットが2008年に開かれ、そこから劇的に良くなっていきました。我々は「簡単に湯垢を取ってもらう商品」というコンセプトで作っていましたが、エコブームが到来したことで「節約グッズ」「エコ商品」としてメディアで紹介されるようになりました。時間が短縮できて、水を節約できるという点と、その当時のエコグッズに比べてかわいくてテレビ映えするので注目されたようです。ありがたい追い風のおかげで、ピーク時には年間60万個販売しました。近年は月間2万個くらいが水準で、テレビに出たら翌月は5万個に増えるなど、上乗せがあるという感じです。

Q:授産施設で作っていることも、社会貢献への想いからですか?

施設にお願いしたのは靴下メーカーとの縁で、授産施設のみなさんが靴下の成型をする仕事ぶりを見ていたのがきっかけです。アカパックンの生産は作業内容的にも、少量多品種に対応するためにも、手作りすることが私のこだわりでした。障害者のなかには、長時間でも同じ作業を集中して続けるのが得意な方がたくさんいらっしゃって、その能力がぴったりなんです。だから社会貢献というより、こちらが助けてもらっているイメージですよね。

最初は外注という形でお願いしていましたが、自分たちでものづくりをしないといけないと考えるきっかけがありました。力をぎゅーっと入れる必要がある工程で、腕が痛かったようで、つらそうな顔をしている子がいたんです。このままではいけないと思ったので、商品を楽に作るための「治具」と呼ばれる工具を開発・製造できて、なおかつアカパックンの生産もできる工場を作りました。治具を作れば彼らが楽になるし、我々としても生産性が上がってプラスになるからです。いまはそこで製造した治具を、施設に貸し出して活用してもらっています。より人に優しい生産環境を作りたいと思っているので、70歳以上の女性や、障害者の方たちが楽に作れないとダメなんです。

→安藤孝平(後編)を見る

<記者:平澤 尚威>

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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