恵川商事株式会社 代表取締役 
安藤 孝平(後編)/会社を変革させた“人を称える”経営術

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笑顔が笑顔を生むコミュニケーション
会社を変革させた“人を称える”経営術

「世の中に貢献できる商品を作りたい」という恵川商事株式会社・安藤社長の想いから誕生した、風呂の湯垢を取り除く便利グッズ「アカパックン」。浴槽に入れておくだけで湯垢を吸着するぬいぐるみのようなアイテムで、掃除が簡単になり、水をきれいに保てることから2008年のエコブームをきっかけにヒットを記録した。障害者や高齢者の女性による手作りで生産されていることも、この商品の大きな特徴だ。

営業や出荷などにさまざまな業務に携わってきた安藤社長だが、近年は現場を離れ、自身の働き方や社内の仕事環境を変え、向上させることに努めている。そのカギとなっているのが、「人称論」という考え方に基づいて、自分自身と社員の性格に応じて築いた円滑なコミュニケーションだ。

インタビュー後編は、安藤社長が近年取り組んでいる会社づくりについて、そして障害者が自分に合った働き方ができる環境を提供したいという、今後の展望について聞いた。

→安藤孝平(前編)を見る

安藤 孝平さん インタビュー


Q:ピーク時に比べて売上が少なくなったなか、近年はどのような取り組みをされていますか?

ここ2年ほど、自分自身は徹底的に、売上を意識しないようにしました。営業をしなくなりましたし、自分のコンディションを整えながら、社内を円滑にすることばかり気を付けています。自分は運動したり、お風呂に入って新商品を試したり。コラボ商品など現実的に販売が見込める商品は部下に任せていて、従来にない劇的な変化を伴うような商品の開発は自分がやっています。でもそのくらいの方が会社はすごくスムーズに進むようになりました。

中小企業にはよくあることですが、社長が現場にいると、社員は意見を聞かざるを得ません。でも現場からすればそれがイヤなことが多いんですよね。私も以前は、社長でありながら営業や出荷などいろいろな仕事に携わって、いつも疲れていて、いつも眉間にシワを寄せて難しい顔をしていました。「どんどん意見を出してくれ!会社はフリーだから!」と言ってはいるけど、全然フリーな雰囲気ではなかった。そんな状況を変えようと思って、いまはもう会社から自分の席をなくしたんです。オフィスで難しい顔していたらダメだと思って。それで社内はすごく変わりましたよ。社員がどんどん仕事をしてくれて、現場から意見やアイデアが出てくるようになり、怒ることもなくなりました。

Q:安藤社長がはっきり線を引いて現場に任すことを決めたタイミングは?

2年半ほど前に、先代だった父親が亡くなって、ぽっかりと穴が開いた感じがしました。父がいた頃は、売上に対する気持ちが強くありましたが、肩の荷がおりて、力が抜けたんです。それまでいいと思ってやってきたことが本当によかったのかわからなくなって、色々と自問自答をしました。

時々、“自分の影”にコントロールされたように何かに夢中になってしまう自分がいて、それで社員に負担をかけることもありました。それが実は、いやな事柄から逃げて、蓋をするためにそういう行動に出てしまっていたと気付いたんです。そこで人称論と出会って、自分の好みのことをやればいいんじゃないかと。好みじゃないことをやるからおかしくなる。実際、22歳からずっとやってきた営業も、好きだと思っていたけど、突き詰めていったら好きではなかったことに気付くんです。

好きではないことをやめて新しいことに取り組んでみると、会社のニュースリリースを作るのも楽しいなといった発見もありました。しかも好みの仕事をしていると、社員たちからも「社長楽しそうだな」と見えるみたいで、オフィスで難しい顔をしていた頃とは雰囲気が変わりましたね。

Q:そこまで短期間で会社の空気は変えられるものでしょうか?

2018年に「人称論」という考え方に出会って、それを取り入れることで会社がさらに変わりました。一人称は自分だけで完結できる人、二人称は誰かと共有したい人という風に、タイプに応じて接し方を見極めて、関係性を築く手法です。どのタイプかというのを「好み」と表現するんですが、自分のことは二人称好みだと昔から思っていました。でも突き詰めていくと一人称の人間だと気付いたんです。旅行を例にすると、私が1人は嫌だと思っていたのはただ寂しかったからで、いざ1人で旅行してみると誰かに行動が制限されることがなくて、「1人って超楽しい!」と思えました。SNSで自分のことを誰かに伝えたいと思う人は二人称好みで、私はみんなに知らせる意味を理解できなかったけれど、二人称や三人称だと解釈すれば「好み」だと理解できます。

自分が一人称好みだと認識できるようになり、それを社員に伝えてお互い意識することで、社内でもすごくいい関係が作れたと思います。ビジネスでは報連相が大事だとよく言われますが、私は部下に対して、細かい報告はいらないと伝えました。逆に二人称の部下には報告をします。その人は欲しがっているから。「こんなことまで言ってこなくていいのに」と思っていたことでも、いまは「この人は二人称だから報告したいんだ」と理解できる。そうやって考えることで物事がすごく楽になってきました。

「人称」は「人を称える」と書きますが、「褒める」より「称える」という表現がいいじゃないですか。人の個性を見て、否定せずに称える。これは、中小企業の社長には実践して欲しいなと思います。自分の場合、妻が二人称好みの人なので、家庭の時はずっと一人称ではいられません。だから他で一人称の時間を作ります。自分が一人称、妻は二人称だとお互い理解した上で、二人称の妻とコミュニケーションをとっていく。それをやっていくとお互い称えられて家庭になっていくんです。まず家庭で実践して、それも会社で活用しています。

現在の売上の水準は、ピーク時と比べたら半分以下です。だけど、会社の雰囲気はその頃より断然良くなりました。恵川商事には「笑顔創続」という理念がありますが、私がハッピーで、そして笑顔でいることで、社員も笑顔になってもらいたいと思っています。

Q:今後の展望について教えてください。

豊田市の特別支援学校で、アカパックンの生産が自活授業に取り入れられました。ただアカパックンの製造工程を体験するだけではありません。作っているとB品(失敗作)ができますよね。そのB品と、ちゃんと作れたA品を、価格に差をつけてバザーで販売する。それが「作って、販売する」という勉強になるんです。豊田市の次には、岡崎市でもこの取り組みを始められるよう進めています。さらに豊田市に生産拠点があったら、アカパックンを作れるようになった子たちの受け皿になるので、それを増やしていけたらと思っています。アカパックンを作った経験が生きる職場を、国の補助金なしで作りたいんです。

障害者のなかには、家に籠ると障害が進むということで外に出るけれど、企業に勤めたらノルマがきつくて辞めてしまう方が多いそうです。そうならないように、仕事量に応じた松竹梅のコースを作って、自分で選んでもらえるような仕組みを考えています。毎月これくらい稼ぎたいので、アカパックンをこれくらい作りますという自己申告制です。もう少し作れるようになったらコースを上げて、もっと作れるようになったらアルバイト、その先は正社員というような、階段を作ってあげたい。そうやって段階を踏んでいけば、時間がかかっても、うまく羽ばたけるんじゃないかと思っています。

我々に販売力がないと難しいですが、そういう場を全県に作っていきたいと思っています。熊本の「くまモン」や栃木の「とちまるくん」などご当地パックンもいくつか商品化していて、そういった商品も生かして全国展開していけたらいいですね。ご当地パックンは我々が素材だけ提供させてもらって、現地で生産して販売するという形態を作れているので、そうやって事業が全国に広がっていくのが楽しいですね。

あとは、売上という意識ではなくて、もっともっとアカパックンが売れてみんなに可愛がってもらいたいなと思っています。障害をもった方や高齢のみなさんが、元気に働いて、一個一個手作りでがんばっているので。すごく丁寧ですからね。私が完成品を見て「これでいいじゃん」と言っても、「ダメです」って作り直すんですよ。アカパックンの商品には「サンリオ」とコラボしたシリーズもあって、こういうラインナップは目の角度や形などがより重要になってくるので、作業が丁寧なところがすごくいいですよね。それに、高齢者と女性、そして子供たちが多い空間って馴染みやすいですよね。そんな仕事環境で、笑顔のコミュニケーションを生み出していけたら楽しいなと思っています。

<記者:平澤 尚威>

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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