株式会社まるや八丁味噌 
浅井 信太郎(前編)/伝統製法を脅かす、農水省の「GI登録制度」

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創業680年の老舗が「八丁味噌」を名乗れない?
伝統製法を脅かす、農水省の「GI登録制度」問題

名古屋の名物料理として「味噌カツ」「味噌煮込みうどん」などが挙げられるように、愛知県を中心とした東海地方では、この地域特有の「豆味噌」が食文化として根付いている。なかでも岡崎市発祥の「八丁味噌」は、東海道を挟み、向かい合う「まるや八丁味噌」と「カクキュー八丁味噌(屋号:カクキュー)」という2軒の蔵が、長年にわたり製造してきた伝統の味噌だ。江戸時代初期からいっさい変わらない、「大豆」「塩」「水」だけを原料とした“天然醸造製法”が産み出す「八丁味噌」の味と品質は、愛知のみならず日本全国、広く海外でも愛されている。

しかし、農林水産省(農水省)が制定した「地理的表示(GI)保護制度」によって、この2社が「八丁味噌」という名称を使用できなくなるという、信じがたい事態が起きようとしている。江戸初期から400年以上の長きに亘り守り抜いてきた伝統製法ではなく、あまりにも異なる製法で緩い基準の、大量生産が可能な近代的製法の豆みそを「八丁味噌」として認定したからだ。もともとは特定の地域に長く根付いた伝統ある食品を守ることを目的としたはずの制度が、老舗が守って来た名称を剥奪するという矛盾を生んでいるのだ。

「まるや八丁味噌」と「カクキュー八丁味噌」にとっては、まさに青天の霹靂。まったく思いも及ばなかった危機に突然直面した2社だが、それに屈することなく、「伝統を守る!」という強い信念を貫こうとしている。今回取材を行った「まるや八丁味噌」浅井社長へのインタビュー前編は、八丁味噌の歴史や製法を紹介するとともに、GI登録の現状や、「八丁味噌」の伝統や品質への強い想いを語っていただいた。

【天然醸造が生み出す硬さと旨さ】

まるや八丁味噌は、延元二年(1337年)に醸造業として創業、江戸時代に八丁味噌造りを始めて以来、伝統の技と味を頑なに守り続けてきた。「大豆」と「塩」と「水」だけを原料とし、幅6尺(約182センチ)の杉の醸造樽に3トンもの川石を300~500個積み上げ、人の手を加えることなく二夏二冬以上にわたって熟成させる。一般的な豆味噌にはない「硬さ」と、大豆を生かした「旨さ」が特徴だ。

そもそも「八丁味噌」という名称は、岡崎城から西へ八丁(約870メートル)に位置する八丁村(現在の八帖町)で造られてきたことに由来する。川の舟運と旧東海道が交わる水陸交通の要所であり、原料の大豆や塩を調達でき、江戸で重用されたことからその名声が今日まで続いたといわれています。まるやとカクキューは、唯一の競合会社でありながら、隣り合う蔵として江戸時代から互いに切磋琢磨し、時に競い合い、認め合いながら300年間変わらない伝統の味噌造りに励んでいる。

これほどの伝統と歴史を持つ老舗の命ともいえる、「八丁味噌」の名称が、国の定めた制度によって使えなくなる可能性が出てきた。果たしてそれが、伝統の保護、高い品質の証明と言えるのだろうか。

浅井 信太郎さん インタビュー


Q:まず八丁味噌をめぐるGI保護制度についての現状についてお伺いします。

GI登録されなかった「まるや」と「カクキュー」は、海外で今後八丁味噌と称しての商いができない可能性が出てきました。農水省によれば、岡崎2社の八丁味噌の製法と全く異なる、農水省認定のGIに加盟すれば、岡崎の2社に制約はなくなるとのことです。それを受け入れてしまえば、私たちが守ってきた伝統の製法と異なる製法で造られた味噌も“同じ”であると認めることになります。極めて不可解な運用方法です。

この法案はすでに2019年2月1日に通ってしまいました。これにより、岡崎2社は国内外で「八丁味噌」を名乗ることや、八丁味噌として国内で400年以上、海外に40年以上続け伝えてきた醸造文化を伝承することに著しい障害が発生します。

Q:どうしてこのような決定が下ってしまったのでしょうか?

単刀直入に言えばこんなにも大胆かつ卑劣なことがよくできるなという印象です。今回のGI登録を巡っては、農水省の説明は当初、登録を目指すのであれば生産地を「愛知県」に拡大しなければ登録は困難と言われ、ギリギリまで登録を目指したが、やむなく申請を取り下げました。その直後に短期間のうちに後から申請した団体を登録するという瞬時の出来事でした。今回のGI登録を巡っては「中国からの進出を防ぐために、日本の八丁味噌を守った。岡崎の2社は不幸なことでした」との説明でした。これも不可解でした。

Q:しかし、製法も品質も全く違うものでは?

我々は、GI登録申請をした際の出願条件に「伝統的な製法」という項目があったのでそれを信じていました。また登録に際しては「地域での合意形成が前提条件」となっていました。 しかし最終的には認定の前提条件さえも全てが覆ってしまいました。伝統的な製法として農水省の認定を受けたのは、「伝統」とは程遠い、「近代的な製法」です。

岡崎2社の八丁味噌は天然醸造で二夏二冬以上の2年以上熟成させ、発酵を促進させるための温度は加えません。「六尺桶」という杉桶だけを使い、重石は味噌の2分の1にあたる3トン(で約300~500個 ※2ページ目で説明しているため省略します)の川石を円錐状に乗せます。最終製品に「添加物」は一切使いません。しかし、GI登録された八丁味噌は、醸造期間はわずか一夏、25℃以上の熱も加えて10カ月で作って良い!ということになっています。しかも木桶ではなく、ステンレスのタンク、重しの形状は問わない。これでも農水省は大差がないとしています。そうでしょうか?

農水省の公示内容より下記の表を作成しました。驚きは、アルコール・酒精などの「添加物を加えて良い」と決められたことです。これに関しては、消費者が誤認する可能性があるため、平成30年11月15日、消費者庁に請願をしました。

Q:この事態に対して、どのような反応がありましたか?

八丁味噌のGI登録をめぐる現状を知ると、「それはおかしい!」と愛知県下の多くの方、また名古屋大学や東京農業大学の農学に関係する先生方が主張され始めました。岡崎4大学の学長の方々が署名活動のご準備をされ、その中でも愛知産業大学の学長は自ら駅前に立ち、この状況を広く知らせようと取り組んでいただきました。岡崎で2万4000筆、岡崎以外の愛知県内で2万9000筆ほど集まっています(2019年2月時点)。愛知県下の一般の消費者の方々に、徐々に「何か不可解なことが起こっていそうだ」と知れ渡るようになってきました。

八丁味噌に慣れ親しんでいた豊田市の中学2年生の生徒が、GI登録に違和感を覚えたと、中日新聞で報道されていました。岡崎2社以外の味噌を「愛知の豆味噌」として登録したらいいのではないかと、主張しています。その案が本来であり、多くの方の感想のようです。

Q:伝統の製法と品質への想いの源は?

戦時中にも同じような危機が訪れたことがあります。昭和14年発布された販売価格統制令が敷かれた下で2社は共同で「休業宣言」をして八丁味噌の製法と品質を守り、戦後昭和25年頃から製造を再開いたしました。味噌に水や塩多く加えれば、原価を下げられるかもしれませんが、長期にわたって休業をしてでも、八丁味噌の伝統と品質を守ったのです。その決心をされた両者の先祖の思いに源があります。

まるやとカクキューさんの関係がいいのは、ライバル心はあるけれど、良いバランスを保って、お互いにパートナーとして敬服できるからです。

→浅井信太郎(後編)を見る

<記者:平澤 尚威>

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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