株式会社キングジム 代表取締役社長 
宮本 彰(前編)/「10個に1個がヒットすればいい」大胆な社風

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「10個に1個がヒットすればいい」
世の中にない商品を生み出す大胆な社風

書類をキレイにまとめられる厚型ファイル「キングファイル」。名前や日付のラベルをさまざまなデザインで作成できるラベルライター「テプラ」。どちらも多くの人が目にしたことのあるオフィス用品だろう。これらのヒット商品を生み出したのが、1927年創業の「株式会社キングジム」だ。

これだけ日本の定番となったオフィス用品を扱うメーカーともなれば、“堅実な社風”というイメージを抱く人もいるかもしれない。しかしキングファイルもテプラも発売当初は、キングジムの現在の経営理念である「独創的な商品を開発」するというチャレンジ精神に繋がる、全く新しい商品だった。その姿勢は現在も変わることなく、それを如実に表しているのは「10個に1個がヒットすればいい」という、あまりにも大胆な社風だ。

今回インタビューした、創業者・宮本英太郎氏の孫である四代目、宮本彰社長は常ににこやかで前向きに語る姿が印象的だ。全2回でお送りするインタビュー前編は、テプラの開発エピソードや、ペーパーレスの時代に備えた新しい展開、そして社員の挑戦を促す風土を作る秘訣について伺った。

宮本 彰さん インタビュー


Q:宮本社長が入社された1977年当時のオフィス環境は?

当時はパソコンが普及していない時代で、オフィスにはまだコピー機もなく、タイプライターがあったくらいです。その後、ワープロが各部署に1台配置され、それを交代で使うような環境になっていきましたね。

私が入社したのが創業50年で、当時の売上が50億円だったことを覚えています。その頃に販売していたのは、ノートや手帳もありましたが、創業者である祖父が開発した厚型の「キングファイル」がほとんどでした。ファイルはそれ以降も当社の中心となり、2011年には累計5億冊を達成して、おかげさまでどの会社にも置いていただいているような商品になりました。

Q:入社されてから、ヒット商品「テプラ」開発に携わった経緯は?

まずは工場での仕事を経験するため、資材部で材料を仕入れる業務からスタートしました。本社に来てからは経理ですとか、海外を中心とした営業を経験し、次に入ったのが総合企画室という全体を見る部署でした。予算管理や、会社の進むべき方向性を決めていく極めて重要な役割です。そこでテプラ開発のきっかけとなるプロジェクトに携わることになりました。

テプラを生み出すきっかけになったのは、ファイル専門屋である私たちの「このままでいいのだろうか?」という危機感でした。少しずつOA機器が普及してきていた時代で、手書きの文書が減り、このままペーパーレスになったら大変なことになるという意識がありました。

といっても実のところは、当時ペーパーレス化は起こらず、逆にコンピューターのおかげで紙が伸びたんです。なぜかというと、コピー機やプリンターが普及し、どんどん速く、安くなり、FAXも登場していった。そのため意外にもオフィスでの印刷は増えていって、ファイルが売れ続けました。

それでも私たちはいつかペーパーレス化が来ると思っていて、常に心配していました。ペーパーレスという言葉は近年よく耳にするようになったかもしれませんが、実はかなり古い言葉なんです。あったけれど、実現はされなかった。今のような環境問題ではなく、コンピューターが出てきたら紙は必要なくなるんじゃないかという単純なことですが、私たちにとって大きな問題でした。

なんとか新しい柱となる商品を作らなくてはいけないと考えていた時に、それまでペーパーレスを促進する敵だと思っていたコンピューターを味方にしてしまおうというアイデアが生まれました。電子機器で何か作れないかと考え、私たちはファイル屋でしたから、ファイルの背中に見出しを印字できるテープを貼れたらいいんじゃないかという発想でテプラが生まれました。見出しを綺麗に貼れればファイルも売れるという、相乗効果も狙いです。

その後、1人に1台パソコンをもつことが当たり前になった時期にもかなり危機感を感じたのですが、やはりその頃が一番紙が増えた時期でもありました。プリンターの普及が大きくて、それまで出していなかったデータまで印刷するようになっていきました。当時は良い方に予想が外れてよく売れていましたが、長い目で見たらどっちに振れるかわかりません。資金が潤沢にあるうちにペーパーレス時代に備え思い切った投資をしようと判断できたことがよかったと思っています。

現在はいよいよペーパーレスが本格化していて、ファイルの売上はピーク時の半分になっています。毎年少しずつ売上が落ちている厳しい状況ですが、そういう時代ですから仕方がありません。まだ官公庁や大企業で始まった程度ですが、これから中小企業にもその取り組みが下りてくることが予想されますので、まだ減っていくと思います。

Q:厳しい状況下で、ペーパーレスの時代に向けてどのような対策を取っていますか?

キングジムはオフィスに特化しているというイメージが強いかもしれませんが、いまはオフィスに限らず幅を広げています。

特に意外に思われるのが、女性向けの文具ブランド「HITOTOKI(ヒトトキ)」です。ブランドの製品の1つである「KITTA(キッタ)」はマスキングテープなのですが、セロハンテープのようにロール状になっている一般的なマスキングテープとは違い、使いやすい長さで切って付箋状にして、カードサイズにしています。ロール状のマスキングテープはかさばって持ち歩きにくいという不満を解消した点などが女性に好評をいただき、現在では累計約190万冊を販売するヒット商品になりました。オフィス用品とは離れたジャンルではありますが、箔押し加工など、今まで作ってきた文具のノウハウが盛り込まれていますので、かわいいだけでなく、品質のいいものを作っているのは文具メーカーとしてのこだわりです。

その他にも、需要そのものが減っているファイルを深追いするのではなく、伸びる事業を広げていかなければならないので、電子機器は中心になってきます。テプラのあとにも、文字を打つ機能に特化したコンパクトなデジタルメモ「ポメラ」という商品がヒットしました。今後も、テプラのような柱になる商品を作っていくことが理想です。

子会社も勢いがあります。まずは「LADDONA(ラドンナ)」というフォトフレームやキッチングッズの企画・販売を行っている会社です。中でも「Toffy(トフィー)」というブランドで展開しているキッチン家電が好評で、オーブントースターやコーヒーメーカー、ミキサーなどキッチンまわりの小物を、機能的でデザイン性のある家電として提供しています。

また、子会社の1つ「ぼん家具」では家具のネット通販を展開していて、こちらは低価格路線です。単身赴任や学生の一人暮らしなどお一人様をターゲットにしています。家具のような大きなものがネットで買えて、次の日に届くのはものすごく便利ですよね。とはいえネットは写真だけで判断するわけですから、触り心地や使い心地は体験できません。そういった場面で納得できる一番の魅力は“安さ”なんです。

安い家具がなぜ売れるかというもう理由の一つは、単身赴任族は転勤が多くて、すぐに引っ越すことになります。そのため高級家具を買うと引っ越しが大変ですし、引っ越し先の間取りに合わせて買換えなければならないとなるともったいない。そういった背景から、家具が気軽に買い換えられることが求められる時代に変わってきていると感じます。1年きっちり使えれば十分だというお客さまにとっては、引っ越しするときに買換えできることが便利なんです。さらに新居で新しい家具に買い替えられるので、逆に引っ越しが楽しみになる。単価が安いと、そんな楽しみ方ができるんです。

もう一つ「アスカ商会」という会社では、「アーティフィシャルフラワー」を扱っています。日本語ですと“造花”ですね。日本人は“本物”を好む傾向があるので生花が圧倒的に人気ですが、欧米では専門店も多く、アーティフィシャルフラワーは非常に大きな市場です。そこには文化の違いがあると思いますが、日本でもこれから伸びてくると期待しています。

Q:こうした新しい商品のアイデアが生まれる風土はどのように生まれているのでしょうか?

私がいつも口癖のように言っているのは、「世の中にない新しいものにチャレンジする場合は外れる方が当たり前」であり、「10個に1個が当たればいい」ということです。9個は失敗するわけですから、失敗に寛容であることと、それだけ失敗しても10個目には当たると常に信じて社員が前向きにチャレンジできるムードを大切にしています。

成功にも失敗にも必ず理由があります。失敗が多ければそれだけ色々な経験をするので、なぜ失敗したのかを学ぶことで、「次はこうすればいいんじゃないか」と違う形でヒットに結び付けることができる。失敗は無駄ではないんですよ。金銭的には損しますが、それがいい経験になって成功に近づいていると考える。そういう企業文化を創ることに一番力を注いでいますし、それが実現できていると思っています。

<記者:平澤 尚威>

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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