株式会社KOMA 代表取締役
松岡 茂樹(後編)/「家具は『一番』がある世界じゃない」

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「家具は『一番』がある世界じゃない」
研鑽の末に辿り着いた “自己の進化” を求める境地

家具職人の道に進み、10年続ければ一人前と言われるなか2年で周囲に実力を認めさせ、3年目にしてデザインから製作まで1人で担当するポジションを与えられた異例の経歴の持ち主が、松岡茂樹氏だ。それからすぐに独立し「KOMA」を立ち上げると、“一点物のクオリティをもった製品づくり”というコンセプトのもと、「工芸」では作れない量と、「工業」で実現できない高品質の家具を、職人の手作業によって生み出している。

インタビュー後編は、職人育成のための独自の取り組み、そして「自分もまだまだうまくなっている」と語る松岡さんに、これからの家具づくりへの意気込みを語っていただいた。

→松岡 茂樹(前編)を見る

松岡 茂樹さん インタビュー


Q:クオリティの高い家具を作るために心がけていることは?

実は、“これ”というのはありません。弟子によく伝えているのは「一個一個全部きちっとやる」ということ。例えば椅子の脚を組む工程はコンマ数ミリという世界ですし、機械を使う時も一回一回掃除してから作業しろというくらい、自分が関わるどの工程も全てをきちっとやることです。その積み重ねが一つになっていい家具が出来上がります。

製造工程で一番時間をかけているのは手道具による仕上げです。製材した木料を刃物で削って整えていくんですが、その部分が一番座り心地に関わってくる。サンドペーパーなどで削るだけじゃだめなので、木目に負けてしまわないような、よく切れる刃物を使わないといけません。

KOMAの製品は自分が設計していて、常に意識しているのは、「家具はあくまでも道具である」ということです。椅子がなんの道具なのかというと座るものなので、座るための機能性が高いものを作ること。テーブルなど色々な家具を作っていますが、個人的に椅子が多いのは、椅子は人と一番密着する家具だからだと思っています。服や靴に近くて、椅子は体と接する面積でも全体重を支える意味でも、あらゆる道具の中で特に人間と密接なもの。座っている間の動きに耐えて、動いた時の心地良さも求められるので、とても奥が深いですよね。

Q:KOMAの門を叩く職人に対して求めている資質は?

個性的かどうかくらいで、技術や技能は全然見ていません。経験者であろうと、よっぽどでなければ大差ないですし、すごい技術のある人はそもそも自分の会社をもっているでしょうから。でも、KOMAにいる職人たちはみんなしっかりした技術・技能があるんですよ。2級建築士の資格を持っていて、建築図面を描けるほどのスキルを習得している人や、CGを作れてそれをプレゼンテーションにも生かせる人とか。販売ができてショップに立ってしっかりと売上を立ててくれる人など、さまざまな能力をもっています。

そうやって成長させるために、一人ひとりに役割を持たせています。役割を与えたらそこには口を出さないし、責任をもって取り組んでもらうんです。一番やりたいことを担当させていくのが、能力を伸ばしていくことになると思いますよ。楽しくないと何の成長にもならないので、楽しいかどうかは大事です。苦手なことなんかやる必要はない。やりたいことをやるための段階としてこれを踏んでおかないとダメ、というものは苦手でもやりなさいと思いますけどね。そんな形で、いまは自分なりに育成に力を入れています。

一番弟子で、椅子の仕上げがどんどん上達している女性職人がいますが、19歳くらいで入社して、力をつけて稼ぎ頭になっていますね。新しい製品は私が見本を作って、それと同じ形に作っています。彼女は刃物を使う技術と削りだす造形力があるので、任せている仕事も多くなってきました。

日本の職人はあまり稼げてない人が多いと聞きますが、KOMAは好きなことをやって、好きな車に乗れるくらいは稼げていると思います。その状況を見て、なかには「家具業界の希望だ」と言ってくれる人もいます。

Q:若手の職人とって非常に働き甲斐のある工房という印象を受けました。

KOMAの若衆には月に10日間の休みがあって、旅行するなり好きに使っていいんですが、最低限1つだけは作品を作るという条件を与えています。工場は開放しているし、材料費や工場の経費は全部支給して、小さい物でもなんでもいいから作らせるんです。休日を使うことになりますが、それを会社で買い取り直営店やネットショップで販売しているので、みんな前向きに取り組んでいます。人によっては10万円の作品を作ってきたりしますよ。そうすれば給料に上乗せされますから、けっこうみんながんばります。図面を描くのも、給料とは別です。休みの日でも家に帰ってからでも好きな時間にやってもらって、製作費の何%を支払うという仕組みになっています。

それは作り手として仕事を続けていくためにオリジナリティをもってもらうためで、オリジナリティを出すには1から10まで自分が携わるということをしないとダメだと思っています。ただ会社の製品を作っているだけでは、オリジナリティは生まれてきませんから。これからはそうやっていかないと、面白いものが作れるようになりません。そうやって彼らが作ってくれた作品を売ることで、必ず買ってくれるようなお客さまがついて、彼ら一人一人にファンができてくる。それが励みにもなるし、やればやるだけうまくなる。

Q:直営店のKOMA SHOPも拡大していくのでしょうか?

2013年にオープンして、2016年に現在店舗を構えている荻窪に拡大・移転しました。ショップをもつことは、修行していた頃から一つの目標にしていたことでした。ただ、オープンした当時は目標を叶えたいという想いが強くて、物を作ることしか知らない自分にとって販売は全く未知の世界です。とにかくやってみて、ダメだったら畳んでしまおうという感じで始めましたが、拡大できたのはショップの代表を務めている妻のおかげです。最近では全国から家具職人が見に来てくれますし、国内だけではなくInstagramを見た人が韓国・中国・台湾などのアジア圏やアメリカからも来てくれるようになりました。店舗の隣のスペースが空いたので、さらに拡大するためのリフォームを進めていますよ。

Q:今後、家具職人としてどんな仕事をしていきたいと考えていますか?

昔はずっと「一番になりたい」と思っていたんですよ。修行時代は日本一になることを目標に掲げていて、いつかいつかと思いながら独立しました。賞レースで賞をいただくこともあって、レベルは上がってきたとは思っています。でも、時間が経つにつれて「一番という一番がある世界じゃないな」と感じるようになりました。陸上競技のようにタイムで世界一がはっきり決まるものとは違って、結局は人の好みに左右されるものですから。自分は削りが得意ですが、細かい彫り物だとかすごい技術を持った人がたくさんいて、同じ椅子でもジャンルや得意分野がそれぞれ違う。一番なんてないな、って感じなんです。

ただ、納得するまでやりたいという想いは常にあります。自分一人で納得していても意味がないので、外からの評価は受け続けたい。そういう意味では、“一番評価をもらえる人”になりたいと思っています。

どんどん作品を作っていくなかで、自分もまだまだうまくなっています。刃物の扱い方は去年より今年の方が絶対にうまいし、当然加工もうまくなりました。経験値が増えていくので、考えられることもいまのほうがもっと優れている。もっといいものを作りたいと、いつも思っています。

KOMAの製品は基本的に、ロットを作ったらもう作らないものが多いんです。それは、作っている時はベストを尽くしているけど、作っていく中で「ここはこんな風にもできるな」という発見が出てくる。だから次はそれを盛り込んでいくんです。もちろん、どちらがいいのかという答えはなくて、お客さまによっては「前の方がよかった」と言われることもあります。それでも、自分のなかでさらに進化するということは、ずっと続けていきたいと思っています。

<記者:平澤 尚威>

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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