日本理化学工業株式会社・代表取締役社長
大山 隆久(前編)/60年にわたり障がい者雇用を続けるチョークメーカー

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60年にわたり障がい者雇用を続けるチョークメーカー
社員の力を引き出す「理解力に合わせた仕組み」

2人の知的障がい者を初めて社員として迎え入れてから約60年、長きにわたって障がい者雇用に取り組んできた企業が「日本理化学工業株式会社」だ。社員の約7割が重度も含む知的障がい者という構成だが、決して社会福祉のために障がい者を雇っているわけではない。彼らの生産性を高める努力、工夫を積み重ね貴重な戦力として育て上げることで、チョークメーカーとして国内トップのシェアを守り続けている。

その体制を支えるのは、マニュアル通りに人を動かすのではなく、人それぞれの理解力に合わせて仕組みを作るという発想だ。作業を覚えられない人がいれば、その人がどうすれば理解し継続できるかを考える。作業がうまくできたなら、褒めて、感謝する。それを続けることで社員一丸となって働ける環境が作り上げられてきた。

今回インタビューを行った四代目社長・大山隆久さんの言葉は、すべての社員たちへの信頼や、尊敬の念が感じられるものばかりであった。インタビュー前編は、日本理化学工業が障がい者雇用を定着させるまでの歴史や、知的障がい者によるものづくりの現場を実現するために生み出されたアイデアの数々を伺った。ぜひご一読ください。

大山 隆久さん インタビュー


Q:チョークメーカーを始めた経緯や、国内トップのシェアをキープしている要因は?

小さな問屋を営んでいた祖父がチョークメーカーとして日本理化学工業株式会社を設立したのは昭和12年のことです。当時は肺の病気を患う学校の先生が多く、全く関係のないチョークが原因だとされていました。主流だったチョークは粒子が細かくやわらかい石灰製で、粉が軽くふわっと舞ってしまうという特徴があったためです。

その時に近隣の大学病院の先生から、身体に優しいチョークがアメリカにあるので輸入して欲しいと依頼されたのが、炭酸カルシウム製のチョークでした。メインの材料である炭酸カルシウムは歯みがき粉や食品に使われるもので口にしても害がなく、粒子が大きくて重いので粉が飛散しにくいんです。当時の日本になかったこともあり、祖父は魅力的な商品だと考えたようで、それを機にチョークを取り扱うことを決めました。

創業から80年以上が経ち、いまでこそ国内のシェアは70%ですが、私たちはメーカーの責任としてより良いチョークを作ろうとずっと改善、改良を続けています。学校で使う先生や見る生徒、工事現場で使う人たちにとって良い製品か、安心安全かどうかという面でゴールはないわけですから、それを追い求めてきたことが、シェアを守ることに繋がっていると思います。

Q:日本理化学工業が障がい者雇用を始めたきっかけを教えてください。

昭和34年の秋頃、世田谷区にある養護学校の先生が、女性2人を雇って欲しいと就職依頼に来てくださいました。春に中学部を卒業する15、6歳の生徒です。先代である父が窓口になったのですが、まだ知的障がいに対する知識もなく、何ができて何ができないかわからない人を採用することはできないとお断りをしました。

ですがその先生はまた来てくださって、3回目の来訪時に「就職はもうお願いしませんので、数日間でいいから働くことを体験させてあげて欲しい」とおっしゃったそうです。ここで就職ができないと、卒業と同時に親元を離れ地方の施設に行かなくてはならないし、仕事を経験することなく一生涯を終えることになってしまうかもしれないということでした。

父はそれを聞いて、就職はしないという前提を明確にして、2週間だけ働いてもらう実習を受けてもらうことにしました。早速実習を始めましたが、理解力が高いわけではないので、比較的簡単なシール貼りなどの仕事をしてもらったそうです。ただ、その2人は本当に一生懸命で、休憩のチャイムがなっても、手を止めるように言われるまで一心不乱に貼り続けました。

最初の1日、2日だけでなく、彼女たちはそのがんばりを2週間続けてくれました。その姿を見ていた周りの社員たちが、実習が終わる際に父のところに来て「これだけがんばれる人たちだから採用して欲しい。できないことがあったら私たちが面倒を見る」と言ってくれたのです。父にとって先輩である社員たちの想いに応えたいという気持ちや、この2人ならどうにかなるだろうという判断もあり、父は採用を決めました。こうして初めて障がい者を雇用したのが、昭和35年4月のことでした。

Q:障がい者雇用を続けていくうえで社員からの反発などはありませんでしたか?

養護学校とのつながりができ、その後も卒業生の採用を続けましたが、全員が最初の2人と同じように働けるわけではありませんでした。周りに迷惑になる行動をしてしまうこともありますし、理解して欲しいことが伝わらないストレスが社員のなかで増えていきました。父もこのまま障がい者雇用を続けていたら経営が立ち行かなくなるのではという不安を覚えていた時に、あるお坊さんとお話しする機会があり相談をしたそうです。知的障がい者の社員たちは、常日頃から失敗をしては怒られる状況で、障がい者施設にいたほうが怒られることなく守られる環境で生活できるのに、なぜ毎朝決まった時間に職場まで来てくれるのかとお話をしました。

するとお坊さんは、人間の「究極の幸せ」として「愛されること」「褒められること」「必要とされること」「役に立つこと」の4つを挙げました。そのうち、愛されること以外の3つは、福祉施設ではなく働く場だからこそ与えられる幸せだと教えられたのです。何かが上手にできたら「よくできたね、ありがとう」という言葉をかけてあげて、天候の悪いなか出社してくれたら「よく来てくれたね、助かったよ」と伝えられる。父はそれが企業の役割なのだと実感し、障がい者雇用にさらにがんばって取り組んでいこうと思えるようになったそうです。

Q:工場では管理者が指示を出す形で作業を進めていくのでしょうか?

チョークづくりの現場では、1人の管理者を除いて全員が知的障がい者です。管理者は色々な業務があっていつも現場にいるわけではありませんが、現場にはまとめ役がいるので仕事が回っていきます。まとめ役になるのは班長、副班長や「6S委員」といった人たちです。6Sは「整理、整頓、清潔、清掃、しつけ(習慣)、セーフティー」を指し、日本理化学工業の社員が成長するためのベースとなるもので、6S委員にはそれを推進する役割があります。彼らが自分の仕事をしながら周りのサポートもしてくれるので、管理者はやるべきことに集中できます。

そういう体制が作れると管理者を何人も置く必要がないので経営的に大きな貢献になりますし、6S委員になりたい、班長になりたいというモチベーションは社員たちの成長を後押しします。とはいえ、全員が役職に就くことを目指す必要はありません。あくまでも役職は“責任の範囲”であって、リーダーになることが偉いわけではないということは、彼らにも社長である自分にも常々言い聞かせています。

Q:ものづくりに携わる社員たちの長所は?

自分には真似できないとすごく尊敬しているのは、雑念なく、目の前の仕事に集中していられることです。彼らは休憩の時間がくるまで集中し続けます。現場にいる時と休憩している時の姿は全然違って、現場に入ったときにパッと変わる姿はかっこいいですよ。途中に休憩が入るにせよ8時間続けるのは本当に大変なことですし、繊細で素早い作業を見ているだけでも、現場はこの人たちに支えられているのだと実感できます。

社員たちは基本的に欠勤しないので現場が安定するんです。彼らの身体の強さや、自分がいなかったら会社が困るという自覚と責任感は会社を支えてくれています。その思いが強くて体調が悪くても来てくれてしまう人がいるので、私たちも彼らの様子をよく見ていなければいけません。

ものづくりに携わる社員には、重度の障がいをもっている方が3~4割ほどいます。IQでいえば40以下で、数字の理解や文字の読み書きは苦手です。相手の理解力に合わせて何かを伝えるには、ただの言葉ではなくちょっとした工夫が必要になります。しかし理解をしてもらえば、仕事をやりきってくれている職人のような人たちです。

Q:仕事内容を理解してもらうためにどのような工夫をしているのでしょうか?

最初はマニュアルの通りに言葉で教えていましたが、その瞬間できたとしてもすぐ忘れてしまうということを繰り返していて、これでは仕事にならないと困っていました。そこでヒントになったのが、信号機でした。何グラムや何秒という数字ですとか、袋やバケツに何が入っているのかを文字で理解することは難しくても、彼らは信号をいくつも通って無事に通勤していました。ということは信号の色、意味は理解しているということです。

それなら色で管理してみようという発想で取り入れたのが、材料の重さを量る天秤の重りと、材料を入れるバケツに色をつけるという工夫でした。赤いバケツの材料を計量する時は赤い重りを乗せればいいという仕組みです。すると、作業を理解した社員は、見事に赤のバケツからとって計量することができました。うまくできたので褒めると、その人が次に言ったのは「もっと量っていいですか」という言葉でした。それは「自分にもできるからもっと褒めて欲しい」という意味なんです。

その言葉を聞いた当時の管理者は、理解力に合わせた段取り、教え方ができたらもっと彼らの良さを引き出せるとに気付いたんです。マニュアルは、仕事のやり方が決まっていて人がそこに合わせていくものですが、日本理化学工業は逆の発想で、仕組みを人に合わせていければいいという考え方に至りました。

Q:ほかにも工夫されている仕組みがあるのでしょうか?

曲がりや欠けなど不良をチェックする工程を担当しているのは、40年の経験があり目利きのできるベテランです。△と×が描かれた箱を置いておき、彼がダメだと判断するものは×にいれてもらいます。そして、良いのか悪いのか判断できないものは、悩まず△に入れるというルールです。「迷っても悩まなくていいんだよ」と伝えておくことで、△以外に関しては堂々と自信をもって判別できるようになり、彼らの仕事の質を高めることができます。

チョークの完成品のサイズは、日本工業規格(JIS)で定められています。長さを計るなら定規を使うのが普通ですが、私たちが使うのは独自の治具(作業を指示・誘導する工具)です。この治具は上限と下限のサイズで段差になっていて、規格に合わないチョークは入らない、もしくは下に落ちてしまうので、真ん中に留まれば良いチョークということになります。私は数字がわかりますが、これがあれば定規を使うことはありません。彼らにわかりやすいことは、社員全員にもわかりやすい、ユニバーサルデザインの仕事のやり方ということになるんです。

<記者:平澤 尚威>

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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