日本理化学工業株式会社・代表取締役社長
大山 隆久(後編)/「採用したからには絶対に一人前にする!」

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「採用したからには絶対に一人前にする!」
重んじるのは障がいをもつ社員それぞれの成長

日本理化学工業株式会社は60年にわたって障がい者雇用に取り組んできた、チョークのトップメーカーだ。障がい者にとって、彼らが働ける企業は「褒められる」「必要とされる」「役に立つ」という、障がい者施設で過ごすだけでは得難い幸せを感じられる場でもある。

日本理化学工業は障がい者雇用に取り組んできた歴史のなかで、社員が仕事を覚え働き続けられるよう、マニュアルに人が合わせるのではなく、人に仕組みを合わせていく会社を作り上げてきた。大山隆久社長は、彼らは企業に必要な人材であり、「採用した以上は絶対に一人前にしなければいけない」と語る。

大山社長へのインタビュー後編は、能力や性格が異なる社員ひとりひとりの目標や成長を認める社風について、そしてチョークの需要が減っていくなかでものづくりの会社として発展させていくための新しい柱となるブランド「キットパス」の展望についてお話しいただいた。

大山 隆久さん インタビュー


Q:入社された当初、苦労されたことや難しかった仕事などはありましたか?

難しかったということではありませんが、“日本理化学工業を理解する”ということに時間がかかりました。入社前から障がい者雇用をしていましたから、それを受け入れたうえで入社したつもりではいたんです。しかし少子化などで授業の形態が変わり、チョークの使用頻度が減っている時期でしたので、私は障がい者ではない人をもっと採用して、成長できる組織体制を作らないといけないと社長や幹部に本気で伝えていました。

でもそれは、後々気付いたことですが、日本理化学工業がなぜ障がい者雇用を貫いてきたのかを一つも理解せずに、常識に囚われているだけの考えでした。時間はかかりましたが、一緒に現場に入るうちに、彼らのすごさや、会社が彼らに支えられてきたということに気付かされました。私たちから障がい者雇用をとったらなにも残らないわけで、そのなかでどう成長できる企業にしていくかを考えればいいのです。

Q:社員の採用についての基準や気を付けているポイントは?

採用を決める前に、特別支援学校の生徒には2週間の実習を3回受けてもらいます。日本理化学工業のものづくりの現場に合う人なのか、どの作業に適した能力をもっているのか、社員として「4つの約束」を守ってくれる人なのかどうかを確認します。4つの約束とは、食事や排せつ、出勤や退勤など身の回りのことが自分でできること。2つ目は簡単でいいので意思表示ができることです。わかったかどうかを伝えられることが大切で、けがなどのトラブルにも繋がるのでわかったフリをするのが一番いけません。3つ目は、給料をもらっている社会人ですから、一生懸命働くということ。そしてもう一つは迷惑をかけないということです。約束を破ることがあったら、やっていいことと悪いことを理解してもらうために家に帰すことや、仕事を取り上げることもあります。

私たちは「採用した以上は絶対に一人前にしなければいけない!」と考えています。私たちは企業であり、社会貢献をしようと思って採用をしているわけではありません。彼らの雇用を続けているのは現場に必要だからです。私たちには採用する人たちの人生がかかっているので、彼らが周囲から「ありがとう」と言ってもらえる場所を見つけていくことが仕事だと思っています。反対に、入ってくる人たちにも会社の命運がかかっているので、彼らにも責任をもって精一杯働いてもらわなくてはいけません。ですから社員を採用するうえでは何ができるかという能力よりも、仕事への姿勢やパーソナリティを重要視しています。

Q:働きやすい環境を作るために工夫されたことや、管理する側に求められる役割は?

前編でお話ししたように、相手の理解力に合わせて教える、段取りすることを一番大切にしています。伝わらなければ意味がないわけで、理解してもらい、その人がもっている力をいかに発揮してもらうかが勝負です。それはどんな時代になろうとも同じですし、それは障がいのある人だけでなく誰にでも通じることだと思います。

社員の居場所を作れるかどうかも、会社として重要なことです。安心して通える場所だと感じなければ、がんばろうとは思えません。上司や管理者は、社員それぞれのいい所や貢献してくれた部分を称えながら、成長をバックアップしています。一人ひとりの成長があって会社の成長があるので、大事なのは「みんなで作っていく会社なんだ」とお互いを応援しながら会社を守っていくことです。

Q:社員の評価はどのように行っていますか?

チームや個人としての目標の数字はありますが、重要な評価の基準は社員それぞれの成長の度合いです。どのくらい変わったのかを見て、毎月のMVPを選出したり、色々な賞で評価をしたり賞与に反映したりしています。数字や目に見えなくても、リーダーシップを発揮できる人や、働く姿で周りを引っ張っていく人もいますし、みんなに良い影響を与える行動はたくさんあります。

事務所で働いているメンバーのなかに、自閉症があって、来客時にお茶を提供している社員がいます。その人が目標にしているのは、お茶を上手に淹れるということと、笑顔でお客さまに対応するということです。自閉症の人は表情を作ることが本当に難しい場合もあるのですが、すごくいい笑顔を見せられるようになってきました。彼女はそのために本当に努力してくれていて、それを見るとこっちが励まされます。

また日本理化学工業では、社員たちが3カ月の間にどのような成果をあげ、個人の目標に対してどう取り組めたかを社内で発表する活動を20年以上続けています。社員のなかには、「大きな声で発表する」という目標を持っている人がいます。簡単だと思われるかもしれませんが、その人にとっては大きな声を出すことがとてつもなく高いハードルなんです。そのためにたくさん練習して、大きな声で発表している姿を見ると心から感動しますよ!そういった姿が私たちのモチベーションになっていますし、私たちは仕事を教える立場ですが、彼らも私たちにたくさんのことを教えてくれる先生なんだと実感しています。

Q:障がい者が働ける企業を作りあげることは、社会全体や世間の人々にどのような影響をもたらしますか?

障がい者雇用は本当に覚悟をもたなければお互いにうまくいかないものです。相手に理解をしてもらえるよう導くことは大変で、障がい者雇用のコツがあるかと聞かれても絶対にないと思いますし、「障がい者雇用に取り組んでください」とは他の企業には言えません。

ただ、「彼らと一緒に働いていると、絶対に会社の空気が変わります」ということは言えると思っています。自分を繕うことが少ない人たちなので、彼らを見ていると取り繕ったりカッコつけたりするのは本当に意味がないことだなと学ばされるんです。良いことは良い、ダメなものはダメ、ありがとうはありがとう。本当にシンプルなんです。

何かできないことがある人がいたとしても、周りにできる人がいるなら任せればよくて、ただしその人ができることは一生懸命やってもらう。一人ひとりの違いを受け入れることができれば、その人の豊かさにつながりますし、私たちの空気も変わっていくと思っています。

Q:チョーク市場の縮小が見込まれるなか、今後はどのような取り組みに注力されていきますか?

チョークを使う機会はますます減るでしょうし、使う量は目に見えて減っています。私たちにとってメインの商品はチョークですが、いつまでもそれに頼っていられません。次の柱を作るために、「キットパス」を世界ブランドにしたいと考えています。キットパスはガラスや鏡、机、つるつるして浸透しないところであれば自由自在に書いて消せるマーカーです。大きな目標ですが、許されている時間も少ないので、精一杯以上の働きをして結果を残すことを考えています。

「書く、描く」という行動は、人間にとって脳の活性化や心の発散といったとても良い影響を与えてくれます。チョークは特定の人たちが使う商品ですが、キットパスは全ての世代にかく楽しさを感じてもらえる商品です。日本だけでなく世界中の誰もが楽しめますから、全ての世代に“楽がき”文化を広めていきたいと考えています。

今後はいかなる小さなマーケットでも圧倒的なナンバーワンになれるかどうかが勝負です。ガラスに絵を描く道具といえばキットパス、お風呂用の筆記具にはキットパスという風に、マーケットとなる分野をいくつも積み上げていくのが世界ブランドになるということだと考えています。かくことの楽しさ、自由を手軽に感じられる筆記具として浸透させていきたいです。

現在、輸出の割合は国内の出荷数とは比になりませんし、海外では価格差が大きな壁になるのも事実です。世界ブランドにするためには、楽しさを伝えていくとともに、リーズナブルに生産できる場所を作り世界中に流通させなければいけないと思っています。それと同時に、私たちが続けてきた障がい者雇用を世界にも適用し広めていくというチャレンジもしていきたいですし、いつかそれが具体化できると思っています。

<記者:平澤 尚威>

"日本の匠に尊敬と感謝の思いを込めて" - Grateful JAPAN

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